8人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
01
その時、清川美香子は走っていた。
午後一の授業に遅刻しそうなのだ。階段を一段、時に二段飛ばしに駆け降りて道を急ぐ。
段を降りきった踊り場を人を避けながら曲がる。
新任の教師だろうか──中高一貫のため教師の数が多く把握していないため分からない──大袈裟な動作で美香子をかわした。
「ごめんなさいね!」
振り向く暇がないため、顔の向きはそのままに大声で謝る。
そして美香子は授業前のざわめきの中に消えていった。
*
午後の授業を終え、いざ帰宅。
というところで、級友に声をかけられる。
「美香子、呼ばれてるよ」
級友に返事をし、呼ばれた元へ向かう。
「清川。帰るところやのに、ごめんな。ちょっと来てもらってもええかな?」
教師の高瀬が眉を下げながら手招きした。
高瀬に連れられた先には、若い男性が職員室のソファで脚を組んでいた。
なんだ、あの偉そうな態度は?
口には出さないが、顔には出ていたかも知れない。
なんのために呼ばれたのだろうか。……まあ、考えても仕方がない。
「先生、私は何の用で呼ばれたんですか?」
「それやねんけど……」
「教師に対する言葉は合格点かな! でもスカートを捲り上げて走るのは頂けないね! 叩き直すに相応しい人材だ……」
高瀬の言葉を遮り高らかに発言した男、久慈との初対面であった。
「この人何言ってんの!?」
この瞬間から、私の受難は始まったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!