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その時、清川美香子は走っていた。 午後一の授業に遅刻しそうなのだ。階段を一段、時に二段飛ばしに駆け降りて道を急ぐ。 段を降りきった踊り場を人を避けながら曲がる。 新任の教師だろうか──中高一貫のため教師の数が多く把握していないため分からない──大袈裟な動作で美香子をかわした。 「ごめんなさいね!」 振り向く暇がないため、顔の向きはそのままに大声で謝る。 そして美香子は授業前のざわめきの中に消えていった。 * 午後の授業を終え、いざ帰宅。 というところで、級友に声をかけられる。 「美香子、呼ばれてるよ」 級友に返事をし、呼ばれた元へ向かう。 「清川。帰るところやのに、ごめんな。ちょっと来てもらってもええかな?」 教師の高瀬が眉を下げながら手招きした。 高瀬に連れられた先には、若い男性が職員室のソファで脚を組んでいた。 なんだ、あの偉そうな態度は? 口には出さないが、顔には出ていたかも知れない。 なんのために呼ばれたのだろうか。……まあ、考えても仕方がない。 「先生、私は何の用で呼ばれたんですか?」 「それやねんけど……」 「教師に対する言葉は合格点かな! でもスカートを捲り上げて走るのは頂けないね! 叩き直すに相応しい人材だ……」 高瀬の言葉を遮り高らかに発言した男、久慈との初対面であった。 「この人何言ってんの!?」 この瞬間から、私の受難は始まったのだった。
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