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「つまりは……」
久慈の言うことを纏めると、だ。
かつては名門だった我が女子校に所用で訪問していた。
所用というのは、自称、有名なマナー講師である久慈は校長に依頼され、マナー講習を受け持つか否かの返答をすること。
実際に見学に来たが、校内の女生徒の
オッサン臭さに久慈は絶望した。
なかでも、私がスカートが翻るのも構わず階段を駆け下りるのを目撃し、久慈はそのガサツさに驚いた。
学校全体のマナー講習の前に、私を一流の淑女にする実験をさせて欲しい、ということだった。
「……? 先生、この人気持ち悪いです」
久慈から距離をとる。
実験とか言っちゃってるし。
久慈と大学の同窓だという先生に助けを求める。
「悪い奴ちゃうねん……変やけど……。容姿端麗やねんけど……残念な奴やねん」
言われて、男を盗み見る。
長く伸びた脚は優雅に組まれている。
小さな顔だが、目鼻立ちはくっきりしている。目もパッチリとした二重だし、スッと伸びた鼻は高い。
肌は十代の私よりもキメが細かいのではないか。
着ているスーツも、詳しくない私でも一流のものだと分かる。
ううん、喋らないで頂きたいものだ。
目の保養かも知れないが、実験とやらはお断りだ。
「申し訳ありませんが、久慈さん。実験? のお話はお断りします」
「どうして?」
「いや、特に女らしくなりたいとか思ったことないんで」
それに面倒くさそうだし。
最後の言葉は心にしまう。
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