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いけない。
用意に時間をかけてしまって、いつもより遅く家を出た。
駅まで走るけど、慣れない靴のせいで足が痛む。でも、そんな事言ってる場合じゃないし、何より今日はこの靴で運気アップするんだから、多少の痛みは我慢しよう。
結局、いつもより遅い電車だったものの、運よく座ることが出来た。
普段の時間なら考えられない事だっただけに、もう効果が出ているのだとにやけそうになるのを堪えて会社の最寄り駅で降りた。
駅前の大きな交差点。
少し先に会社の先輩であり、片想いの相手の後ろ姿を見つけた。
嘘、いつもなら会わないのに。
これも「赤」の効果かな。
私は迷わず彼の背中に向かって走り出した。
だから。
気づかなかった。
信号が点滅している事に。
半分を渡りきる前に既に赤に変わっている事に。
その時、足が痛んだ。
ズキンと、重い痛みでバランスを崩して倒れたところに、赤いトラックが突っ込んできた。
何か凄い衝撃が走って、体は宙を舞って、地面に叩きつけられた。
私、どうなったの?
「佐伯!しっかりしろ、佐伯!誰か救急車!」
あ、先輩。
手を握って、私を心配してくれている。
「頑張れ佐伯、すぐ救急車くるからな!」
嬉しい。
大好きな先輩が目の前にいる。
大丈夫だと応えたいのに、声が出せない。力が入らないな、手も動かない。
手、だけじゃなくて、体全部、動かないや。
信号は赤。
トラックも赤。
私の体から流れ出てる血も赤。
そして先輩が私の体を支えてくれている。
こんなにラッキーが重なるなんて。
でも、変ね、なんか視界がぼやけて意識が朦朧としてきたな。
それに、やたらと寒い。
嗚呼・・・。
私は薄れ行く意識の中、テレビ画面に映し出されていた7月生まれの今日の占い結果を思い出していた。
「いつもと違う行動は控えましょう。外に出たら、トラックには注意しましょう。」
当たってるじゃない。
やっぱり、占いって楽しいな。
「佐伯?佐伯!しっかり!だめだ、目を開けろ、さえきーーーーーー。」
「えっ、佐伯さん?吉野先輩、どうしたんです?」
・・・・嫌いな、女の声がした。
同期で同じ吉野先輩を好きな小澤まや。
だめだ・・・意識が。
野次馬と、遠くで聞こえるサイレンと、先輩の温かい腕の中で、私は敗北の気分を味わう事となった。
小澤まや。
8月生まれだった。
ランキング1位には敵わなかった。
「佐伯さん・・・死んじゃったんですか?」
口を押さえて大袈裟に驚いて見せる。
佐伯の後ろにいた私は一部始終を目撃していた。
勿論彼女が信号が点滅する中、走っているのも。
トラックの運転手がスマホを見ながらこっちへ向かって来るのも。
先輩は佐伯を抱えて俯いたまま。
それを私は慰める。
まさか、こんな事になるなんて・・・。
やっぱり、今日はツイてるわ。
今日の占い、8月生まれは1位。
------何もかもあなたの思い通り。目の上のたんこぶが無くなり、晴れ晴れとした気分で過ごせるでしょう。------
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