わんわん消防隊

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 A市消防署では、朝礼で並ぶ若手隊員たちは、政府の通達を隊長から知らされた。全員が悔しそうに、顔を見合う。 「隊長、じゃあ、僕らが今までしてきたことは……」  定年退職が近いの隊長は、あまり犬が好きではなかった。笑顔で応じる。 「コンピューターで制御されたオートマ消防車が、全てやってくれるんだ。危険な業務が少なくなった。とても良いじゃないか?」 「隊長、僕らはパピーとして子犬を立派な消防犬《しょうぼうけん)としてなるべく、しつけてるんです。危険な現場に出て欲しくない気持ちもあります」 「消防犬(しょうぼうけん)は、全身を完全防護するから、大丈夫!」  消防犬(しょうぼうけん)用の新型耐熱・耐爆防護服も制定された。新消防犬(しんしょうぼうけん)服は、消防車と同じ赤色で統一だ  しかしながら、A市消防署の若手消防士たちは、素直に喜べないようだ。一様に視線を床に落とす。将来消防犬(しょうらいしょうぼうけん)となる、子犬を育てるパピーでもあるのだ。  四年前の政府通達により、消防士の採用条件は、全国どこでも、犬好きが必須条件となっている。(完)
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