わんわん消防隊

1/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 2119年、人口5万人を管轄するA市消防署、消防・救急指令センターに119番通報があった。 「火事ですか? 救急車ですか?」 「ワンワン、キャウーン」  インカムをつけたオペレーターは、犬からの通報と判断した。キーボードを操作して、モニターに“犬語”と表示される。ワン、キャン、という鳴き声は、明瞭な日本語として、モニターに文章として表示された。 「燃えてる嫌な臭いがするワン。近所から、煙がもこもこと長い犬の毛のように上がってるワン。心配だワン」  ちなみに、“飼い猫通報”の場合は、語尾にニャンがつく。語尾については、犬語や猫語の翻訳AIを、発明した某動物学者の強い意向が反映されている。契約で変更不可能だ。  犬の知能では、詳細な住所などは伝えられない。しかし、モニターには通報した犬を中心とした地図が表示される。飼い犬の皮膚下には法律により、特殊なICチップが埋め込まれているのだ。  消防署に待機中の四人の消防士全員が、素早く赤い防火服を身にまとう。一人づつ消防車の運転席に飛び乗る。四台の消防車がサイレンを鳴らし、赤い回転灯を照らしながら、通報先の犬に向って夜道を疾走する。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!