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その廃村に迷い込んだのは日が暮れる寸前だった。 朽ちた建物の影からこちらを伺うあからさまな邪気に多少狼狽しながら、オレはもつれる足でむりやり歩を進めていた。 其れに対して傍らの少女は実に軽やかな足取りだ。 「ふふ、こわいんですか?」 顔を覗き込みながら、いたずらっぽく微笑む。 「こ、こわくなんか…ネェよ。ちょっと疲れただけだ…」 目をそらしながら、オレはアゴの冷たい汗をぬぐった。 (ちくしょう、この小娘…なんて肝が据わってやがるんだ…) 外見は十代半ばにしか見えないが、一撃で竜を屠ったなど、ここ数日間の旅でその実力は実証済みだ。 こんな障気渦巻く場所においても楽しんでいるフシさえ見受けられる。若年だが、積んで来たチャクラは計り知れない。 戦いが始まった。 「けひゃあああ」 化鳥のような叫び声をあげながら魔僧兵が一斉に襲い掛かってくる。オレが手を出すより先に少女の拳が僧兵のアゴをとらえ、動きをマヒさせる。その挙動は正確かつ流麗だが、同時に無慈悲だった。容赦ない一撃が脳天を割る。 たちまち周囲の軍勢は一掃されたが、あとから絶えず湧いてくる。 オレは大きく肩で息をしながら、砂混じりの血を吐き捨てた。呼吸を整える。 「油断しないで」 強烈な蹴りを放ちながら少女は叫んだ。白い頬が返り血に染まっている。 「わ、わかってる」 そう返すのがやっとだった。なんとも頼もしい限りだが…いいようのない焦りと劣等感を抱きながら、オレはただひたすらに己が拳を眼前に迫る敵に叩き込んでいった。
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