たばこ

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 彼がいない夏が来て、秋が来て、冬が来た。  あの喫茶店で別れた日から、私は彼に会っていない。なんだかとても寒くて、彼の少し高めの体温が恋しくてたまらなかった。心にぽっかりと大きな穴が開いたようで、何もやる気が起きなかった。 「来年はもっと長くいられるようにしようって、言ってたのに。」  独りごちた自分の声の、あまりのか細さに、涙がこぼれた。  いつのまにか、たばこの匂いがするたびに、彼じゃないかと振り返る癖がついた。たばこの吸い殻が落ちているのを見つけるたびに、彼との思い出を回顧していた。  彼はいつから、別れを考えていたのだろうか。何が決定打になってしまったのだろうか。本当は私のことを好きだったときなんて一瞬もなかったんじゃないか。付き合うこと自体、迷惑してたんじゃないか。  ――考えても考えても、答えなんて見つからない。それでも、彼のことを片時も忘れたくなくて、現実を、突然の別れを認めたくなくて、考えずにはいられなかった。
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