七月十三日

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 しかし、奇跡は起きた。  進学した大学がたまたま同じで、そこに縁を感じたという高校生当時憧れ、そして妻となった『香澄(かすみ)』は僕に声を掛けて来てくれた。  高校の頃、ただ部外者のように同じクラスメイトでありながら遠巻きに眺めるだけだった僕を認知していたことが嬉しかったし、それから共に過ごす事が自然と増えてくれたのも嬉しかった。  学食で一緒に食事を摂るのも、休みの日に映画に誘ってくれるのも、全て香澄の方からだった。  就職が決まっていたこともあり、大学卒業後は当たり前のように籍を入れた。  一年後には子供も生まれ、順風満帆な生活だった。  平凡な人生だけれど、その平凡すらも今は難しい時代であり、僕がその波に乗れたという事は夢にも思えていた。  だが、その夢は覚めた。  二年後に香澄は死んだ。  交通事故による死だった。  轢いたのは高齢ドライバーによる運転ミスと全国で報道された。  マスコミにインタビューされたが、『許せない』などとは言えなかった。  高齢ドライバーは僕が勤務する会社の重役だったからだ。  
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