赤い傷痕

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「少しだったらいいよ」 少々臆しながらも詠美はまた頷いた。 「自己紹介するね。私は長峰芳香、下の名前で呼んでくれていいよ。高校2年生。貴女は?」 「私は市川詠美。私は1年生」 「そう。詠美ちゃんって呼んでいい?」 「いいよ」 「ゴメンね、突然声掛けちゃって。ビックリした?」 「うん。どうして、でもどうして声を掛けたの?」 「他人事とは思えなくて」 そう言って芳香さんは黒いシャツでまた腕を隠した。 「リストカットって見て見ぬふりをする人が多いから正直ビックリした。芳香さんも自分で切っているんでしょ」 詠美は少し勇気を出して聞いてみた。 「うん。癖になっちゃった」 そう言うと芳香さんは泣いているような顔をして笑った。その顔を見たら詠美は何だか悲しくなった。芳香さんは話を続けた。 「私はね、最初、親の関心をひきたくて切ったの」 「そうなんだ。私も親に対する気持ちからかな」 「私達の年頃ってそうだよね。解る気がする。私の場合はね、家のお母さん、家に殆どいないんだ。彼氏の所に入り浸っているらしいの。だからお母さんのベッドのシーツの上でね、切ったんだ。そうしたら真っ白だったシーツが真っ赤になって」 唐突に衝撃的な話だった。詠美は驚きが隠せず、小さく「えっ」と言った。その後、 「そう、それでどうしたの?」と聞いてみた。 「お母さんが彼氏の所から帰って来てね、私のシーツ汚したわね。って。そう怒鳴られてからお風呂場でシーツ洗わされたの」 「それで洗ったの?」 「うん。手洗いで洗ったよ。2時間位冬のお風呂場にいた」 詠美は聞いていて胸が痛くなった。なんて言ったら良いのか解らず下を見ていた。
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