赤い傷痕

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「剃刀使っているの?」 女の子は詠美の腕を見ると声をひそめて聞いてきた。詠美はドキッとした。シャツの袖で上手く隠していたのにリストカットの痕が見えてしまったようだ。 ここは埼玉県の大都市、大宮駅のホームにあるベンチである。本屋さんでのアルバイトが終わり電車に乗る為駅に行ったが、電車が来るまで後15分位時間があったので、詠美は何気なくベンチに座ったところであった。 「それ、自分で切ってるんでしょ?」 ふいに横に座ってきた女の子に聞かれた。髪を一つに後ろで縛っている色の白い目の大きな美少女だった。詠美は何て言ったら良いのか解らなかったので、自分の腕を少々大げさに隠した。 「私はね、通販で剃刀買って使っているの。ホラ見て」 女の子が着ている黒いシャツの袖を捲る。6月のこの季節は半袖での人が多かった。しかも今日は蒸し暑い。この女の子も傷跡を隠す為に長袖を着ているのだろう。詠美は何となく親近感を覚えた。女の子が捲ったシャツの下には横一文字の切り傷が何本もあった。切りたてらしく瘡蓋のものまである。何だか痛々しい。 「やっぱり剃刀が一番だよねー。切った時にピリッと痛く熱くなる所が大好き。包丁やハサミだとこの感覚が味わえないんだよね」 詠美は剃刀は使っていなかった。主にカッターで切っている。そうか剃刀も良いのかもしれない。自然と頷いてしまった。 「ねえ、次の電車に乗るの?時間あったら、話さない?」 これから家に帰るだけなので別段用事はない。この女の子と話をしてみようか。
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