4人が本棚に入れています
本棚に追加
シゲオ
「その鳥居が見えたら終わりだ」
皺くちゃの爺さんが言った。
その爺さんの名前はシゲオと言う。
猟師の爺さんで、山に篭って猟銃を持ち熊を撃っていた。
ツキノワグマだ。
たまに海を渡り青森辺りで羆の目撃例があるらしいが、本土にいるのは基本はツキノワグマしか居ない。
バタバタと強い雨音が室内にまで聞こえてくる。
此処はシゲオの作った小さな山小屋だった。掘建て小屋と言ったほうが良いかもしれない。
簡単に柱を組んだ物に、トタンが打ち付けられて、一応の窓が付いている。
住居では無く、簡易的に山で夜を明かさねばならない時に、ほんの1日2日泊まる為の小屋だ。
千堂はたまの休みを利用し、目的も無く車を走らせて日帰りの軽登山を楽しむつもりだったが、山中で急な雨に降られた。
天気予報では言っていなかった。
山の天気は変わりやすい。
そんな中、出会ったのがシゲルだった。
シゲルは自らの小屋で雨宿りをする事を薦めた。
今日は猟の為でなく、小屋の管理の為に来ていた。
小屋の中で、千堂は山に纏わる怪談でも無いかと聞いた。
雨が止むまでの暇つぶしだ。
シゲオは言った。
幽霊は居ないが、鳥居があるとーー。
「終わるって、どうなるんですか?」
千堂が訊く。
「ん? 見えたら終わりっていうのは、半分は誇張だ。実は見てもそこで帰れば問題が無い。でも潜って向こうに行っちゃなんねえ」
「行くとどうなるんですか?」
「知らん。帰って来た奴が居ないから。2人行って、1人帰って来て、鳥居の話をするから伝わってるだけだ。普通は2人いれば一緒に潜るもんだが、感が良い奴は何か気付くんだろうな」
「何か?」
「ああ。何かな。鳥居の向こうには普通、神社が在るだろう? でも鳥居いから覗く限り、その向こうには何も無い。なのに、山ん中にしては、ちゃんとした立派な鳥居なんだそうだ」
「はぁ」
なんとも、取り留めの無い話に気の抜けた声が出る。
最初のコメントを投稿しよう!