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今日から君もデザイナー(企画)
9月吉日。都内某撮影所。
「ええっ!
マヂでこんなの着るんですか?!」
自慢の腹筋を惜しげも無く晒しながら、人気モデル・麻宮 珈以は素っ頓狂な声をあげた。
「ちょっ…珈以くん。
声大きいよ💦」
マネージャーの風間が慌てて人差し指を唇に当てる。
「“こんなの“とか言わないで。
これは世界的なイラストレーター“J・オオタキ“がデザインした一点物のTシャツなんだから」
「いや…それは分かってますけど。
でも、今日は『V○UGE JAPAN』(一流ファッション誌)の表紙撮影ですよね?
いっくら超有名なイラストレーターの作ったTシャツでもこんなダサい___」
「わぁああぁっ💦
ダメだってば!『ダサい』なんて言っちゃ」
珈以の言葉を遮る風間の声の方が余っ程大きい…
「ね、珈以くんはプロのモデルさんでしょう?
だったらダサっ…いや…奇抜な服だって、オシャレに魅せられるんじゃないの?」
愛嬌のある丸眼鏡の位置を直しながら上目遣いに珈以を見上げ、微かなため息を漏らす。
「それとも、あれ?
まだ珈以くんには無理だったかな。モデル経験浅いもんね」
飛ぶ鳥を落とす勢いの人気モデルではあるが、デビューしたのは半年前だ。
「いや·····そんな事は·····」
「ごめん。僕の配慮が足りなかった」
風間は眉尻を下げ、尚も言葉を繋げる。
「やっぱりこんな大役、荷が重かったよね。“新人くん“には·····」
下手をすると愚鈍とも取れるおっとりとした風を見せている風間だが、それは周りに敵を作らない為の戦略であった。
裏の顔は計算高く狡猾だ。
イケメンが売りだけの若造を操るなど造作もない。
モデルの先輩達から嫉妬混じりに『新人くん』と揶揄される事に苛立っている、珈以の心情を逆手に取っての発言。
「全然、いけますよ!俺プロですから」
ほら、簡単に挑発に乗ってきた。
風間は心の中でほくそ笑みつつも、善良そうに微笑んだ。
「だよね。珈以くんなら絶対そう言ってくれると思ってたよ。
すいませーん。撮影開始していただけますか」
一抹の不安を抱きつつ、珈以は眩いライトの当たる先へと歩を進めた。
→つづく
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