湘南ハーモニー 8

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湘南ハーモニー 8

「お兄ちゃん……お兄ちゃんってば、聞いてる?」    撮影に気を取られていると芽生くんに話かけられ、ハッとした。 「ごめん、ごめん、何かな?」 「あのね、ゆうとくんとお城を作りたいんだ」 「楽しそうだね!」 「やったぁ」 僕も手伝おうと立ち上がると、菅野に制された。 「葉山、ここは俺がしっかり見ているから、少し宗吾さんと遊んで来いよ」 「え?」 「さっきから、二人の熱視線ビームにやられてるんだよ~」 「えぇ!?」  菅野にウインクされてギョッとした。  わわわ、僕が歩きながら宗吾さんに見惚れていたの、バレバレだった?  菅野だけは、僕と宗吾さんの関係を知っているから、つい心を許せてしまうんだ。だからなのかな? 宗吾さんを求める熱い心を上手く隠せない。 「菅野くんは気が利くな。じゃあ瑞樹と少し砂浜を散歩しても?」 「へへ、もちろんすよ。お任せあれ!」 「パパ、お兄ちゃん、ボク、いい子にしてるよ。いってらっしゃい」 「う、うん……じゃあ、少しだけ」   宗吾さんと肩を並べて、砂を踏みしめた。  僕はラッシュガードを着込んでいるが、宗吾さんは日焼けしたいらしく上半身裸なので、ついチラチラと彼の厚い胸板を見つめて、ドキドキしていた。  僕……あの逞しい胸に押し潰されるように抱かれたことも、彼の胸元に耳をあて眠ったこともあるんだよな。  もう、何度も何度も―― 「おいおい、瑞樹、よせって、その視線はヤバイ!」 「あ……すみません」 「嬉しいよ。甘い視線だ」  駄目だな。僕……いつになく開放的になっているようだ。  そうこうしているうちに、先ほど見ていた撮影現場に近づいて来た。 「おぉ? モデルくんの髪色、瑞樹と同じだな」  確かに帽子からはみ出た明るい栗毛は、僕の髪色とよく似ていた。 「顔が全然違いますよ」 「そうかな? 瑞樹もアイドルでイケるぞ。広告代理店勤務の俺のお墨付きだ」 「も、もう、よしてくださいよ。僕は……もういい歳ですよ」 「10は若く見える!」 「宗吾さん、もう……恥ずかしい」    モデルの男の子はかなりの小顔で、そのシュッとした美しい顔に爽やかな笑顔を浮かべていた。ほっそりとした体型でスタイルも抜群なので、同じ男なのに、見蕩れてしまう。流石モデルさんだと関心した。 「あっ、やっぱり――」    彼が帽子を脱いで顔をあげた時、ますます月影寺の洋くんと顔立ちが似ていたので驚いた。これはもう他人の空似のレベルではない。  狐につままれたような心地になったので、目を擦って、もう一度じっと見つめた。 「あぁ、彼は……そうか、参ったな……雰囲気が全く違うので、今まで気付かなかったよ」 「え? 宗吾さん……知っているんですか。彼は誰ですか」 「モデルの(りょう)だよ。知らない? 今売れてる子だよ。ティーンズ雑誌で、絶大な人気があるんだ」 「……そうなんですね。あまりそういう雑誌は見ないので……でも彼……洋くんに顔立ちが似すぎていませんか」 「あぁ、それが驚きだ。明日聞いてみよう。何か関係があるのかもしれないよな」 「そうですね」 「さぁ、もう少し歩こう。ここに立ち止まっていると、誰か知り合いに会いそうで怖いよ」 「はい、分かりました」  その時、ふと視線を感じたので顔をあげると、そのモデルの男の子が僕らをじっと見ていた。その視線が眩しそうだったのが、気になった。 「あの、彼……表面上は朗らかですが、少し疲れているみたいですね」 「……瑞樹は人を見る目があるから、そうなのかもな。モデルは過酷だよ。こんな炎天下にあんなに肌を晒して」    彼は本当に美しい男性だった。  洋くんもだけれども、顔も身体も綺麗過ぎる…… 「そろそろ芽生くんの所に戻りましょう」 「えー? もう二人きりのデートは、終わり?」 「……なんだか落ち着かないんですよ。芽生くんを残しているのが」 「ありがとな。瑞樹の母性は絶大だな。よし、戻ろう!」  宗吾さんに肩を組まれて、その場を去った。 **** 「涼、ぼけっとしてないで。あかりちゃんに見惚れてないで、もっと集中して」 「あ、はい! すみません」  真夏の海での撮影は想像より過酷だった。  しかも上半身裸、水着姿での撮影が落ち着かない。僕は男だから、これは当たり前で、気にすることないのだが、この身は安志さんに愛されているものなので、大切にしたい。 「涼くんってばぁ、私の胸に見蕩れちゃった?」 「え? えっ……と」  モデル仲間のあかりちゃんは、かなり露出度の高い水着姿なのに、膨よかな胸元を見つめても、僕の心はちっとも靡かない。とは言えないので、曖昧に笑うしかなかった。  僕が気になったのは、人集りの向こうに立っていた、背の高い男性と可憐な雰囲気の男性の雰囲気が甘くて素敵だったからだ。  彼ら……いい雰囲気だったな。  男性の友人同士なのかな?   僕も、安志さんとあんな風に気軽に海に遊びに来たいな。  自分で選んだ道……モデルの仕事が最近辛いなんて、誰にも言えない。  もう一度先ほどの二人連れを見ると、仲良く肩を組んで歩いていた。  絵になる二人だな。  うん、やっぱりいいな。  あぁ……僕も、安志さんに会いたい。  そんな気持ちに押し潰されそうになっていると、マネージャーがやってきた。 「涼、お疲れさん。天気も良くて撮影も順調だったので、明日はオフになったぞ、良かったな」 「はい!」 「今日は急な場所変更で悪かったな。千葉の海で撮影予定だったのに、あっちは波が高くて」 「いえ、大丈夫です」 「じゃあマンションに送るから、車に乗って」 「あ……僕……」  ここなら洋兄さんが住んでいる月影寺が近い。突然押しかけても、いいだろうか。まだ帰りたくない。兄さんに会いたい……そんな欲が出てしまった。 「ん?」 「あの身元引き受けの兄の家が近いんです。今日はそこに寄っても?」 「あぁ彼ね。いいよ。涼も少しのんびりと休養しないとな。そこまで送るよ」 「いえ、ここから、すぐなので大丈夫です」 「本当に大丈夫?まぁ、ゆっくりしておいで。但しこれで見つからないように変装してな」 「あ、はい」  ざっと着替えを済ますと、サングラスとキャップを渡されて解放してもらえた。  やった! 久しぶりのオフだ!  大学が夏休みに入った途端、怒濤の撮影、撮影で、この10日間ぶっ通しだった。安志さんとも全然会えていないんだ。  久しぶりに手にした自由時間……最高だよ!  ロケハンからそっと離れて、キョロキョロした。  何をしよう!   自由になった途端、急に元気になり、ワクワクしてきた。  そうだ! あの二人を探してみよう!  どうして、彼らにこんなに興味を持つのか。  もしも彼らが僕の想像通りの関係だったら、見せて欲しいからなのか……  一般的な同性カップルが、どんな風に休日を過ごしているのか、興味があるんだ。  僕にも、安志さんとの過ごす夢を描かせて――  僕の未来はまだ不透明で……見えないから。   補足 **** いよいよ『重なる月』https://estar.jp/novels/25539945のメンバーとのクロスオー・バースタートです。 夏休み話なので、明るく楽しい話にしたいです♡ 今日突然登場した涼について補足です。 『重なる月』未読の方向けに、ざっと説明しますね。 多少ネタバレあります。嫌な方は飛ばしてください。 ⬇ ・月乃 涼(つきの りょう) 174cm 18歳 3歳から高校生までアメリカ・ニューヨークで過ごした洋の大切な従兄弟。只今、横浜市にあるK大学2年生。洋に瓜二つの顔で、優しくてしなやかで可愛い。スポーツ万能で俊足。高校時代は陸上部に所属していた。大学はバスケ部所属。友人に山岡という青年がいる。水族館でスカウトされ、現在はティーンズ雑誌の人気モデル。恵比寿の有名なモデル事務所に所属。時計のモデルでブレイク! 動物に例えると「白馬」 涼 誕生日 7月16日。 花言葉 ジンジャー  血液型 O型 ・鷹野 安志(たかの あんじ) 184cm 29歳 洋の幼馴染の和風男子。純朴で温かく竹のような真っすぐな人。大手警備会社勤務。要人のボディガードの仕事を任されたりもする頼もしい青年。動物に例えると「柴犬」涼からは、実家で飼っているラブラドールレトリバーのアンジュっぽいと思われている。涼の恋人。  
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