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芽生の誕生日スペシャル『星屑キャンプ』2
芽生くんの不安を、僕は早い段階でキャッチしていた。
「10歳の誕生日は10代のスタートだから、ボクはもっと成長しないと」
そんな心の声がずっと聞こえていた。
4年生に進級してから「10歳は1/2成人式もあり『節目』の学年だ」と言われていたので、いつもの誕生日と勝手が違ったのではないかな?
分かるよ、分かる。
僕も同じだったから。
もう10歳なんだから、もっとお兄ちゃんにならないと。もっとしっかり、もっと強く、がんばらないとダメだ。
そんな風に、自分で自分を追い込んでいた。
そんな気負いを解してくれたのは、優しいお母さんの手、逞しいお父さんの手。
あの日の温もりを、芽生くんのお陰で思い出せたよ。
芽生くん、ありがとう。
僕も……芽生くんが必要とする手になりたい。
あの日の父のように、母のように包み込んであげたい。
車から降りると、芽生くんはほっとした様子だった。
「ふぅ~ 外の空気っておいしいね。山道はくねくねしていて、ちょっと気持ち悪かったんだ」
「そうだったんだね。ここで休憩して正解だったね。あ、緑の匂いがする」
「するする! くんくん、あっ、お花のかおりもするよ」
「おー! 絶景だな」
宗吾さんが空に向かって、大きく伸びをした。
宗吾さんは背が高いので、空に手が届きそうだ。
「お兄ちゃん、パパの手、雲をつかめそうだね」
「そうだね」
目の前には見渡す限り緑の森が広がっている。
空気が澄んでいるので、きっと夜になったら星が綺麗に見えるだろう。
「宗吾さん、都会の喧騒を離れて見上げる静かな夜空は、美しいでしょうね」
横を見ると、宗吾さんはスマホをじっと見つめていた。
「宗吾さん? どうかしましたか」
「あぁ、天気予報をチェックしてた」
「あっ、お天気、大丈夫そうですか」
昨日の予報では晴れマークだったが、変わってしまったのかな?
急に心配になる。
「よし! 夜も晴れマークだ」
「良かったです」
「星空と山々が織り成す壮大な自然の景色は、圧巻だろうな」
「はい、そう思います」
「夜が待ち遠しいよ!10歳ってとくべつなお誕生日だから、パパとお兄ちゃんと満天の星空にお願い事をするの、ずっと夢だったんだ」
「何を願うんだ?」
「ナイショ!」
芽生くんの希望に満ちた笑顔に、僕も宗吾さんもつられて笑顔になった。
芽生くんの心も晴れたみたいだね。
「瑞樹、俺たち、これからも疲れたら、こんな風に一休みしような」
「はい」
立ち止まって新鮮な空気を吸えば、また歩き出せる。ずっと不安なまま走り続けていては、不安に不安がまとわりついて身動きが取れなくなる。だからそうなってしまう前に気分転換をしよう。
これは芽生くんだけでなく、僕にも宗吾さんにも言えることだ。
「さてと、そろそろ移動するか、車に戻ろう
「そうですね」
「あ、あのね……」
芽生くんが、僕のシャツの裾を引っ張り、何か訴えている。
あ……きっと……こういうことかな?
「そうだ。お兄ちゃん、今度は芽生くんの隣りに座ってもいい?」
「あ……でも……パパがさみしくなっちゃうよ」
「ん? 俺は大丈夫だ。ちゃたちゃたとデートするから、ぬいぐるみを寄こせ」
「え?」
「くすっ」
こういう所が宗吾さんらしい。
戸惑いも不安も迷いも、一気に跳ね飛ばして進む宗吾さんの豪快さに、僕の胸はまたキュンとなる。
僕は……
宗吾さんに毎日恋をしている。
そして毎日幸せを更新している。
今も、これからも、ずっとずっと。
「瑞樹、旅っていいな」
「同感です」
忙しい日常ではゆっくり立ち止まる暇はないが、旅先ではそれが出来る。
だから、こんな風に心の停留所で休みながら進んでいこう。
目的地に到着した。
今日は軽井沢から車で50分ほどの場所にある月峰高原のロッジに泊まる。
標高2,000メートルもあるので、星も空気も一段と綺麗だろう。
「今日はここに泊まろう」
「わぁ、すごいー 木のお家だね」
芽生くんの目が、好奇心で輝き出す。
「気に入ったか。このロッジは、すぐ目の前に星空鑑賞が出来る原っぱがあるんだ」
「あ……本当だ」
建物の目の前に広がる大草原。
この光景には見覚えがあったので、思わず目を擦った。
「瑞樹、気に入ったか」
「あ、あの……ここは……大沼の生まれ育った家のようです」
「だろ? だからここを選んだのさ」
まさに僕の心の故郷、心の原風景だ。
「もしも俺が10歳の瑞樹に会えたら」
「え……何を言って?」
「教えてあげたいことがあるんだ」
「それは?」
「『大丈夫だ。君は必ず幸せになる』と伝えたい!」
爽やかな風、幸せを乗せた風が吹いてくる。
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