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幸せを呼ぶ 13-1
「あれ? でも瑞樹はどこだ?」
「パパー、し~っですよぉ」
芽生が人差し指を縦にして、口を窄めた。
あんまりにも可愛い仕草なので、つい目を細めてしまう。
「なんでだ?」
「こっちこっち」
小さい手で手招きされ、居間の隣の和室の襖を開けると、瑞樹が毛布が被って眠っていた。
猫みたいに丸まって横を向いて……スースーと気持ちよさそうな寝息を立てている。
「なんだ、寝ちゃったのか」
「でもお兄ちゃんは、いっぱいいっぱいメイと遊んでくれたんだよ」
「ふふっそうね。少し疲れたみたいね。午前中、会社に行ったみたいだし」
「母さん、瑞樹いつから寝てるんだ?」
「そうねぇ二時間ほど前かしら。なかなか起きてこないので、先に夕食を食べ始めた所よ」
そうか。今日は午前中、勤めている会社に挨拶に行くと言っていたな。
瑞樹もまもなく……四月から仕事に復帰する。そのポジションがどうなったのか……その話もちゃんと聞いてやりたいな。にしてもスーツのまま眠ってしまったのか。
想像よりずっと無防備な寝顔に、それだけ俺の実家で寛いでくれていることが伝わり、嬉しくなるよ。
「パパ、おにいちゃんのこと、どうする?」
「んー起きるまで寝かしてやろう。俺たちは近くの部屋にいるから大丈夫だろう」
「でも……」
襖をそっと閉めようとすると、芽生はちらちらと心配そうに瑞樹のことを見ていた。
「どうした?」
「んーっとね、お兄ちゃんがおきた時、まっくらだとこわくないかなぁとおもったんだ。あかりをつける?」
「そうか。でも電気つけたら起きちゃうかもしれないぞ」
「うーん、でもぉ……」
珍しく芽生がそわそわと気にしているので、俺も気になってきたぞ。
「もう2時間も眠っているから、そろそろ起きると思うの。宗吾……瑞樹くんの傍にいてあげたら」
「そうだな、じゃあ、母さんと芽生は夕食の最中だろう。先に食べていてくれ」
「分かったわ。起きたら二人分用意するわね」
「母さん、ありがとう」
襖を閉める時に芽生と目が合うと、「がんばれ!」とウインクしてくれた。
おいおい、なんだか芽生の将来が少し心配だぞ。
暗闇の隙間から、居間の灯り……橙色の光がスッと差し込んできた。
へぇ綺麗だな。
光はいい。確かに誰だって暗闇はいやなもんさ。
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