幸せを呼ぶ 13-2

1/1
前へ
/1899ページ
次へ

幸せを呼ぶ 13-2

『瑞樹、お熱出しちゃったのね』 『ん……お母さん、ごめんね』 『何言ってるの? 子供は時に熱を出すものよ。心配しなくてもいいの。いい子に寝ていなさい』 『うん』  お母さんのしっとりとした手が熱を帯びた額に触れると、すごく気持ちよかった。それからぐっすり寝てしまい、起きたら部屋の電気がついていなかったので部屋が真っ暗だった。  汗ばんだパジャマが冷たくて、部屋が暗くて怖い!  慌てて裸足のまま子供部屋を飛び出し下をのぞくと、リビングから明かりが漏れていてほっとした。  急いで階段を下りて扉を開けると、お父さんもお母さんも夏樹もいて、慌てて僕に近寄ってくれた。 『どうしたの? 瑞樹、泣いてるわよ』 『うっ……みんないなくて……すごくこわかった』  なんでだろう。その日はポロポロと涙があふれてとまらなかった。  そんな僕のことをお母さんが抱きしめてくれて、夏樹が心配そうに見上げて小さな手をつないでくれ……お父さんはよしよしと頭を撫でてくれた。 『瑞樹、ずっと一緒だよ。大事な息子なんだから、欠けちゃ駄目だぞ』  お父さんの声がする。 ( お父さん! あぁ……お父さんっ )  必死に声に出そうと思ったのに、うまく出なくて喉がカラカラに乾いていく。  その時、突然目が覚めてしまった。  あれ……ここどこ? 辺りが真っ暗だ。  とっさにさっきまで昔の夢を見ていたことを思い出し、ブルっと体が震えた。 「こっこわい……」 「おっ瑞樹起きたのか」 「え……」  すぐに僕をぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてくれた男性は…… 「……そ……宗吾さん?」 「どうした? やっぱり暗闇が怖いのか」  なんで知って……?  今のは……函館の家に引き取られてから何度も見た夢だ。忙しく働く母に弱音を吐けなくて、布団の中で震えていた。いつまで経っても、あの時抱きしめてくれた暖かい手も小さな手も、逞しい手もやってこなかった。  なのに、今、僕の髪を優しく撫でてくれる男性がいる。 「宗吾さん、宗吾さんっ──」  思わず彼にしがみついてしまった。 「やっぱり芽生の言った通りだな」 「え……」 「瑞樹が起きた時、暗闇は怖いだろうから、傍にいてあげた方がいいってアドバイスもらってな」 「芽生くんが……」 「ふっ、瑞樹は最近とても無防備で可愛いな。幼い子みたいにさ」  額にチュッとキスを落とされ、頬が火照ってしまった。  だって襖の向こうには、芽生くんもお母さんもいるのに。 「そっ宗吾さん!」  驚いて発した言葉は宗吾さんにそのまま吸い取られてしまった。    
/1899ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7918人が本棚に入れています
本棚に追加