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幸せを呼ぶ 13-2
『瑞樹、お熱出しちゃったのね』
『ん……お母さん、ごめんね』
『何言ってるの? 子供は時に熱を出すものよ。心配しなくてもいいの。いい子に寝ていなさい』
『うん』
お母さんのしっとりとした手が熱を帯びた額に触れると、すごく気持ちよかった。それからぐっすり寝てしまい、起きたら部屋の電気がついていなかったので部屋が真っ暗だった。
汗ばんだパジャマが冷たくて、部屋が暗くて怖い!
慌てて裸足のまま子供部屋を飛び出し下をのぞくと、リビングから明かりが漏れていてほっとした。
急いで階段を下りて扉を開けると、お父さんもお母さんも夏樹もいて、慌てて僕に近寄ってくれた。
『どうしたの? 瑞樹、泣いてるわよ』
『うっ……みんないなくて……すごくこわかった』
なんでだろう。その日はポロポロと涙があふれてとまらなかった。
そんな僕のことをお母さんが抱きしめてくれて、夏樹が心配そうに見上げて小さな手をつないでくれ……お父さんはよしよしと頭を撫でてくれた。
『瑞樹、ずっと一緒だよ。大事な息子なんだから、欠けちゃ駄目だぞ』
お父さんの声がする。
( お父さん! あぁ……お父さんっ )
必死に声に出そうと思ったのに、うまく出なくて喉がカラカラに乾いていく。
その時、突然目が覚めてしまった。
あれ……ここどこ? 辺りが真っ暗だ。
とっさにさっきまで昔の夢を見ていたことを思い出し、ブルっと体が震えた。
「こっこわい……」
「おっ瑞樹起きたのか」
「え……」
すぐに僕をぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてくれた男性は……
「……そ……宗吾さん?」
「どうした? やっぱり暗闇が怖いのか」
なんで知って……?
今のは……函館の家に引き取られてから何度も見た夢だ。忙しく働く母に弱音を吐けなくて、布団の中で震えていた。いつまで経っても、あの時抱きしめてくれた暖かい手も小さな手も、逞しい手もやってこなかった。
なのに、今、僕の髪を優しく撫でてくれる男性がいる。
「宗吾さん、宗吾さんっ──」
思わず彼にしがみついてしまった。
「やっぱり芽生の言った通りだな」
「え……」
「瑞樹が起きた時、暗闇は怖いだろうから、傍にいてあげた方がいいってアドバイスもらってな」
「芽生くんが……」
「ふっ、瑞樹は最近とても無防備で可愛いな。幼い子みたいにさ」
額にチュッとキスを落とされ、頬が火照ってしまった。
だって襖の向こうには、芽生くんもお母さんもいるのに。
「そっ宗吾さん!」
驚いて発した言葉は宗吾さんにそのまま吸い取られてしまった。
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