幸せを呼ぶ 18-2

1/1
前へ
/1899ページ
次へ

幸せを呼ぶ 18-2

「えっ、ブライダルなのに、町のちっさな洋菓子屋の仕事?」 「君……何を言って?」 「それより、朝のあの人って先輩のなんですか」 「……」  以前の僕だったら、こういう押しが強い人間は苦手で、どう対応したらいいのか戸惑ってしまっただろう。  言いなりになってしまったかもしれない。でも僕はもう以前の僕ではないから、きちんと言いたいことは告げよう。 「でも葉山さんって本当に先輩なんっすか、だってその顔、どーみても同世代。もしくは年下? 可愛いって言われません? 同性からも!」  彼の手が僕の髪に触れようとするのを察し、一歩自らすっと下がった。  簡単には触れさせない。もう……宗吾さん以外には。 「おっと? アハハ、何、警戒してるんすか」  はぁ……こういう相手には、どう対応したらいいのだろう。 「ちょっといいかな。最初に言っておくよ。僕は君の先輩だ。ただ先輩だからといって、それを笠に偉ぶるつもりはないが、僕がこの四年間積んだ経験は、君にはないものだ。君が僕と同じラインに立てるまで、きちんと自分の立ち位置を考えて欲しい」  真顔で淡々と告げると、意外そうな顔をされた。 「えっと、随分と真面目なんだな」 「ここは会社で社会だから当然だよ。その言葉遣いも気を付けてくれ。さぁ仕事するよ」 「あっはい」  少し不服そうだったが一応従ってくれた。ところがまただ。 「でも、どうして大手の会社なのに町の小さなケーキ屋の仕事まで引き受けるんですか。ここ、何かコネとかあるのかな」 「あのね、僕は仕事に優劣をつける気はないよ。どんな仕事でも心を込めてベストを尽くすこと。分かった?」 「あっはい……」  いちいち教えていかないといけないが、素直に聞く耳は持っていそうなので、すべて指導する僕次第ということなのか。  初日に自分の仕事以外に、上に立つことの試練を味わうことになったが、どんなことでも頑張ろう!    もう下手な隙は与えないし、つけこまれない。その上で部下とうまくやっていきたい。  その後、生け込みをデモンストレーションしている間も、似たようなやりとりが続いた。  根気よく繰り返していくと、徐々に彼の方の気も引き締まってきたようだ。 「葉山先輩、あの、朝からいろいろと不躾な態度……すみませんでした。なんだか俺、先輩のストイックな所を見ていたら気が引き締まりました! 明日から出直す気分で頑張ります!どこまでも葉山先輩について行きます!」 「そうか」 「じゃあ先輩、お近づきの印に、これから一杯飲みにいきませんか」 「いやそれはまだいい。もう少し改善されたらな」 「がんばりまっす!」  打って変わってえらく素直だ……まぁ慕われているのかな。 「じゃあお疲れ様。今日はもう帰っていいよ。僕はこのアレンジメントをお店に配送してから帰るから」 「付き合います」 「んー今日はいいよ。僕もそのまま直帰するし、また次回な」 「はい!じゃあ先輩、次は絶対ですよ」  彼が退社するのを見届けて、ホッとした。  今日は一刻も早く帰り、宗吾さんに会いたい。 「宗吾さん、僕……頑張りました」  早く、彼にそう告げたい。  その後はご褒美が欲しい──  少しだけでいいから、強請っても…… **** ご挨拶(不要な方はスルーでご対応ください) 志生帆 海です。 いつも読んでくださりスターを贈ってくださりありがとうございます。 『幸せな存在』に集まったスターが昨日4万スターになりました。 4万☆ってすごい数です!!! 読んでくださった方、おひとりおひとりに感謝の気持ちで一杯です。 ありがとうございます。 これからも丁寧にこの物語を綴っていきますので、今後もお付き合いいただけたら嬉しいです。 私はペコメや感想などでやる気が出る方なので、どうぞお気軽に交流してくださいね♡ お礼を込めて30スター特典を更新しました! 渋谷にいる瑞樹のその後。気になりますよね!私だけ?
/1899ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7918人が本棚に入れています
本棚に追加