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幸せを呼ぶ 18-2
「えっ、ブライダルなのに、町のちっさな洋菓子屋の仕事?」
「君……何を言って?」
「それより、朝のあの人って先輩のなんですか」
「……」
以前の僕だったら、こういう押しが強い人間は苦手で、どう対応したらいいのか戸惑ってしまっただろう。
言いなりになってしまったかもしれない。でも僕はもう以前の僕ではないから、きちんと言いたいことは告げよう。
「でも葉山さんって本当に先輩なんっすか、だってその顔、どーみても同世代。もしくは年下? 可愛いって言われません? 同性からも!」
彼の手が僕の髪に触れようとするのを察し、一歩自らすっと下がった。
簡単には触れさせない。もう……宗吾さん以外には。
「おっと? アハハ、何、警戒してるんすか」
はぁ……こういう相手には、どう対応したらいいのだろう。
「ちょっといいかな。最初に言っておくよ。僕は君の先輩だ。ただ先輩だからといって、それを笠に偉ぶるつもりはないが、僕がこの四年間積んだ経験は、君にはないものだ。君が僕と同じラインに立てるまで、きちんと自分の立ち位置を考えて欲しい」
真顔で淡々と告げると、意外そうな顔をされた。
「えっと、随分と真面目なんだな」
「ここは会社で社会だから当然だよ。その言葉遣いも気を付けてくれ。さぁ仕事するよ」
「あっはい」
少し不服そうだったが一応従ってくれた。ところがまただ。
「でも、どうして大手の会社なのに町の小さなケーキ屋の仕事まで引き受けるんですか。ここ、何かコネとかあるのかな」
「あのね、僕は仕事に優劣をつける気はないよ。どんな仕事でも心を込めてベストを尽くすこと。分かった?」
「あっはい……」
いちいち教えていかないといけないが、素直に聞く耳は持っていそうなので、すべて指導する僕次第ということなのか。
初日に自分の仕事以外に、上に立つことの試練を味わうことになったが、どんなことでも頑張ろう!
もう下手な隙は与えないし、つけこまれない。その上で部下とうまくやっていきたい。
その後、生け込みをデモンストレーションしている間も、似たようなやりとりが続いた。
根気よく繰り返していくと、徐々に彼の方の気も引き締まってきたようだ。
「葉山先輩、あの、朝からいろいろと不躾な態度……すみませんでした。なんだか俺、先輩のストイックな所を見ていたら気が引き締まりました! 明日から出直す気分で頑張ります!どこまでも葉山先輩について行きます!」
「そうか」
「じゃあ先輩、お近づきの印に、これから一杯飲みにいきませんか」
「いやそれはまだいい。もう少し改善されたらな」
「がんばりまっす!」
打って変わってえらく素直だ……まぁ慕われているのかな。
「じゃあお疲れ様。今日はもう帰っていいよ。僕はこのアレンジメントをお店に配送してから帰るから」
「付き合います」
「んー今日はいいよ。僕もそのまま直帰するし、また次回な」
「はい!じゃあ先輩、次は絶対ですよ」
彼が退社するのを見届けて、ホッとした。
今日は一刻も早く帰り、宗吾さんに会いたい。
「宗吾さん、僕……頑張りました」
早く、彼にそう告げたい。
その後はご褒美が欲しい──
少しだけでいいから、強請っても……
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ご挨拶(不要な方はスルーでご対応ください)
志生帆 海です。
いつも読んでくださりスターを贈ってくださりありがとうございます。
『幸せな存在』に集まったスターが昨日4万スターになりました。
4万☆ってすごい数です!!!
読んでくださった方、おひとりおひとりに感謝の気持ちで一杯です。
ありがとうございます。
これからも丁寧にこの物語を綴っていきますので、今後もお付き合いいただけたら嬉しいです。
私はペコメや感想などでやる気が出る方なので、どうぞお気軽に交流してくださいね♡
お礼を込めて30スター特典を更新しました!
渋谷にいる瑞樹のその後。気になりますよね!私だけ?
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