7919人が本棚に入れています
本棚に追加
幸せを呼ぶ 26-2
何だか乾燥のせいか冷たい物を飲みたいし、急に小腹が減ったんだけどな。流石に冷蔵庫やキッチンを勝手に開けるのはまずいだろう……おーい、どこで寝ているんだ?
そういえば、さっき俺が転寝していた居間に続くドアがあったな、あそこか。
そっと部屋を突き抜け、そのドアノブを何の気なしに回した。
ガチャ──ガチャガチャ……
あれ? なんで鍵なんてかけて……
葉山の部屋だとしても男同士なのに鍵をかけて眠るなんて、随分と警戒心が強いんだな。
その次の瞬間、ドスンっとベッドから人が落ちたような物音がした。
「おいっ葉山! 大丈夫か」
「……なっ何……えっ起きたの? いつから」
「おー、ちょっといいか。ここ開けてくれよ」
「わっわかった!」
慌てた足音がバタバタと聞こえ、鍵が解除される音と共に、葉山がスッと現れた。
その顔を見て、ドキっとしてしまった。
コイツ……なんだ? すげー色っぽい。
こんな表情する奴だったか。唇もいつもより赤くて濡れたように光っていて……寝起きのせいか乱れた髪も艶めいて。
おっと何考えてんだ? 俺……
「どうした? まさか気持ち悪いのか」
「いや、腹減ってさぁ、なんか作ってくれない?」
「えっ」
葉山が戸惑う。なんか変な間があるなと思ったら、ベッドの向こうからのそりと大柄な人が現れた。
えっと……誰だっけ?
「瑞樹の友人だが……何か」
俺が問うより先に教えてもらいコクコクと頷いた。
「俺が作ってやるから、瑞樹はこっちで寝てろ」
「でも……」
「いいから」
というわけで、なんか猛烈に気まずいんですけどぉ……
何故か瑞樹の友人というオッサン(っていったら失礼か)に、雑炊を真夜中に作ってもらうことになった。
「ありがとうございます。いただきます!」
ソファのテーブルに正座してそれを食べていると、じっと睨むようにさっきからは見つめられるのは、なぜだ?
この視線に思い当たるのは……
あっ! もしかして俺、『お邪魔虫』!!って奴かー
「別に邪魔じゃないよ。ふっ」
おっ大人の笑みだなぁ。葉山の奴いつの間にかこんなダンディな友人を作ったんだか。まったく読めない奴だよ。
「君はなかなか大物だね。瑞樹のこと会社で頼むよ」
「あっはい! それはもうっ任せてください」
何を頼まれ、何を任せてもらうのか分からいが、葉山のことは大好きだ。純粋に同期として! だからお前が何かを隠そうとしているのなら騙されてやるし、聞かれたくないことは無理強いしない。
「君はいいとして、この彼は……まだ信用がおけないな」
「あっ、ソレは始発で俺が連れて帰りますので」
「ふっやっぱり物分かりいいな。頼んだぞ」
葉山は毛布をかぶったままベッドの上に体育座りをして、オロオロと様子を見守っている。
そんなに心配すんなって、大丈夫だってーいうの。
おどけてウインクしたら、頭をペシっと冗談めいて叩かれた。
「瑞樹に色目つかうなよ」
「そ、宗吾さん……もう」
困った葉山の声。
へぇ『宗吾さん』か……さっきまで滝沢さんって言ってたのに。
ふたりはもしかして恋人? 葉山の恋人は彼なのか。
そう考えると合点がいくけど、いいのかな。
まぁ深く考えるのはよそうか。
葉山がまた前のように笑って毎日会社に来てくれるのが、俺の中では一番さ!
最初のコメントを投稿しよう!