幸せを呼ぶ 27-2

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幸せを呼ぶ 27-2

「あの……写真を撮っても? 」 「もちろんだ」  休日になると、母の形見の一眼レフを僕は持ち歩いていた。  もうこのカメラを使えない母の代わりに、僕が撮る。  母が見たかった光景と少し違うかもしれないが、僕の幸せをここに収めていこう。 「芽生くん、こっち向いて」 「おにーちゃんっ」  屈託のない笑顔が、キラキラと太陽から生まれた光のように舞ってくる。  あどけない小さな手を、精一杯青空に伸ばしている姿。  全部全部、収めるよ。 「パパぁー」  滑り台を下りた芽生くんが、全速力で僕たちに向かって走ってくる姿も。 「抱っこー」  そのまま空に向かって大きく抱きあげられる姿も、全部僕の幸せ。 「わぁ高い高い! クルクルして~」 「よしっ! しっかり掴まっていろよ」 「わーい!」  タンポポの綿毛みたいだ。芽生くんって……ふわりふわりと幸せを撒いてくれる。  僕の頭上に届くあどけない笑い声。  シャッターを切る指先も軽いよ。  カシャ──カシャ── 『そうよ。いい調子、そのまま上昇気流にのって』  え……お母さん?   見上げた青空から、懐かしい声が届いたような。 『あなたは今……幸せね』 『はい……幸せで満ちています』  胸がいっぱいで、そう答えるのが精一杯だった。  死んでしまったら、もう会えない。  そう思って忘れようと記憶から追いやってごめんなさい。あなたはいつもこんな近くにいて僕をずっと見守ってくれていたのに、気づかなくてごめんなさい。 『あやまることないの瑞樹。あなたは私たちの宝物。目に見えないものこそ幸せな宝物なのよ。今のその気持ち大切にして……』 『はい、そうします』  天国との対話をしていると、小さな手が僕をグイグイと引っ張った。 「おにーちゃん、お話、終わった?」 「あっうん」 「ならあっちに行こう。向こうにはシロツメグサがいっぱい咲いているよ! 」 「そうなの? 」 「うん!あのね、『しあわせ』が呼んでいるみたいなの」  幸せが呼んでいるか……  僕に幸せを呼んでくれるのは、宗吾さんと芽生くんの存在だよ。  幸せな存在は、あなたたちだ。 『幸せを呼ぶ』 了 あとがき(不要な方はスルーでご対応ください) **** 志生帆海です。こんにちは。 いつも読んでくださって、沢山のスターもありがとうございます。 今日で『幸せを呼ぶ』の段も終わりました。27話!ほぼ1カ月走り切りました。瑞樹が日常を取り戻していく様子、会社での様子をじっくり描いてみました。私は、攻に溺愛される受が大好きですが、受の男らしさを描くのも好きです。攻めと二人の時は沢山甘えて、外ではちゃんと男らしく仕事もこなして…… さて物語は、とうとう散々お預けしまくっていた宗吾さんと瑞樹のゴールインに入ります。その部分も感情面を中心にじっくり描いていきたいと思っていますので、どうぞお付き合いください。今度は寸止めはありませんのでご安心を。
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