恋の行方 2-1

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恋の行方 2-1

「パパ、もう~早くおきておきて! おねぼうですよっ」  ボフッと被っている布団の上に、可愛い重みが飛び込んできた。 「ん~もう朝か」 「パパ! 今日は何の日かしっている?」 「もちろん! 瑞樹が引っ越してくる日だろう」 「あたりー!」  芽生も満面の甘い笑みを浮かべている。  とうとうだ、ついに待ちに待ったこの日がやってきた。こんなにも待ち遠しい感覚は、久しぶりだ。俺が芽生位の頃にクリスマスが待ち遠しくて、ワクワクしていた気持ちと似ているな。  そうだ……瑞樹は俺にとって『贈り物』だ。  彼と知り合って、ちょうど今日で1年か……目を閉じて1年前の瑞樹を探してみる。 『パパー大変なの、来てー』  芽衣の幼い声が聞こえてくる。  瑞樹はシロツメグサの原っぱで俯せになって大泣きしていた。礼服が汚れるのも構わず肩を小刻みに震わせて……本当に胸を打つ切ない光景だった。  そんな彼を慰めてあげたくて近づいて、顔を見て驚いた。だって君はいつも幼稚園のバス停前を通過していく二人組の内の一人だったから。  彼の明るく清らかな笑顔が眩しくて……俺がとうの昔に置いてきた世界を彷彿させるから……ずっと気になっていた。相手が付き合っている彼氏だと気づいた時は凹んだよ。  本当に遠い存在だったんだ。  清らかな水を、俺みたいな生き方をしてきた人間が汚してはいけない、触れてはいけない、見守るだけの世界の住人だと思った。最初は傷ついている瑞樹の隙を突くように奪いとるのではなく、そっと励まして引こうと思ったんだ。  でもそれは俺らしくない。奪い取りたくないのなら、相手に染まればいい。  清らかな水を俺も飲んで、俺の生き方を君色に染めあげていこう。  瑞樹と話せば話すほど、しっくりきた。笑いあえば合うほど楽しい気持ちになった。彼が泣けば守ってやりたくなり、彼が頑張れば心から応援してあげたくなった。  いつの間に俺は……こんなにも自分以外の相手を大切に思えるようになったのか。  すべて瑞樹から教わった。 「パパ、とってもしあわせそうな顔してるねー」  芽生が俺のベッドに潜り込んで、ぎゅっと抱きついてきてくれた。子犬みたいで可愛いな。 「芽生もうれしいか」 「うん! お兄ちゃんがこのおうちにきてくれるなんて夢みたいだもん。ねぇパパ、おにいちゃんって、なんだかずっとずっといっしょにいたくなる人だよね! 」  芽生の幼い一言は、実に核心をついている。  そうだ。ずっと一緒にいたい人なんだ、瑞樹だ―― 「それにしてもパパのベッド、すごく広くなったね~」 「まぁな!」
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