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恋心……溢れて 5-2
「瑞樹、鍵かけてもらえるか」
「あっはい」
「その鍵は今日から瑞樹のものだよ」
「はっはい」
宗吾さんが僕に手渡してくれた手中の鍵を見て、ドキッとした。
「これ本当に僕の鍵なんですね」
「そうだよ。いつも帰りが同じ時間だとは限らないし、ここには当たり前だが、好きなように出入りしてくれ」
「ありがとうございます。あの……家賃をちゃんと入れさせてください」
「うーむ、本当はいらないが、それじゃ君の気が済まないもんな、まぁ少しは受け取るよ」
「お願いします。あの、ではこの鍵は遠慮なく使わせていただきます」
「うん、なんだかいいな。こういうのって」
「ですね!」
ひとつひとつのことが、昨夜から新鮮だった。
一緒に鍵を閉めて部屋を出ることも……いやそれ以前に、僕と宗吾さんの靴が玄関に仲良く並んでいることも、歯ブラシが並んでいることも……些細なことが嬉しい。
芽生くんを介して、僕たちは朝から手をつないで歩くことが出来た。
一年前まで一馬と下った道を、三人で登っていく。
中間地点はバス停だ。
バス停に着いた時、かつての僕が向こうから歩いてきたような気がした。
一馬と肩を並べ笑いあって通り過ぎていく君は、もう過去の幻。
ちょうど僕とすれ違った時、その幻はシャボン玉のように弾けて消えていった。
これでいい──これがいい。
「おはようございます!」
僕の方からバス停のお母さん達に挨拶できた。
「おはよう! 瑞樹くん。同棲スタートおめでとう!」
ど……同棲? 同居じゃなくて?
その言葉に動揺してしまった。しかも明るい笑顔が一斉にこちらを向いたので、たじろいでしまった。
でも……嬉しかった。
世の中こんな上手くいくことばかりじゃないのは知っている。こんな風にバス停のお母さん達に、僕と宗吾さんの関係を応援してもらえるのが恵まれすぎていることも。
「あの……本当に大丈夫なんですか。その……僕たちの関係……」
「まぁ何を心配しているの? 私たちは大丈夫よ。あなたたちを見ていると何だか無条件に応援したくなるの。何より滝沢さんの生き返り方が半端ないし」
「おいおい、それ言う?」
「あらぁ1年前は、確かかなりくたびれたおじさんだったわよーなんだか元気なくて心配していたのよ」
「まぁ……あの頃はそうだったよな」
「それにしても、今日は一段と若々しくていいですね! 」
お母さんたちと宗吾さんの会話に、なんだかハラハラする。
「まぁな。昨夜、最高にいいことあったからな」
「くふふ」
そっその笑いの意図は!
「そっ宗吾さん、それ以上言ったらもうっ」
「おっバスが来たぞ」
「……よかった」
バスに乗り込んだ芽生くんと手を振って別れ、今度はふたりで駅に向かう。
「さぁ俺たちも行こう」
「はい!」
同じ方向を、僕たちは向いている。
いつだって、これからはずっとずっと――
宗吾さんの隣にいたい。
おしらせ(不要な方はスルー)
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本日はホワイトデーですね。後程何かスター特典で
ホワイトデーのSSを書いてみたいと思っています♡
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