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さくら色の故郷 23-1
瑞樹の姿が見えなくなるまで、店先で見送った。
今度はいつ会えるだろう。オレも明日には軽井沢に戻らないとならないし、今回急に休んだので、次は暫く先になりそうだ。
東京で元気でやっていけよ。余計なお世話だろうが、宗吾さんと末永く幸せに仲良くな。
「そうだ。兄貴……さっき昼飯食っていたら、瑞樹の高校時代の友達に会ったよ」
「へぇ珍しいな。男? 女?」
「どっちも」
「ふぅん、瑞樹にそんなに地元の友達いたかな」
兄貴の方は、思い当たらないといった様子で首を傾げていた。
「……女の方は、たぶん瑞樹の元カノじゃね? って雰囲気だったぞ」
「あぁ……いたな」
「えっアタリ?」
「あぁ高校時代に付き合っていたよ。何だったかな……名前」
「……ミサトって呼んでいた」
「そうそう!ミサトちゃんだ」
「なんだよ。兄貴は知ってたのか」
「んー軽くな。結局、2年位付き合ってたかな」
「そっか」
瑞樹の高校時代か。
その頃……オレは5歳下だから、まだ小学生だった。だから瑞樹の高校での交友関係なんて興味なかったし、瑞樹はほとんど真っすぐ家に帰ってくるから、女と付き合っていたなんて気が付かなかったな。
それにしても今は宗吾さんと付き合っている瑞樹にも、女との恋愛経験がちゃんとあったと思うと、不思議な気持ちになった。
何だか……あんな女って言ったら失礼だが、もしもそのまま付き合って結婚していたら、どうなっていたのだろう? って二人の会話を聞きながら、思わず想像しちまった。
正直、奥さんに瑞樹が尽くすよりも、宗吾さんに溺愛されている方が安心だ。
瑞樹……宗吾さんに沢山尽くされるといいな。
宗吾さんなら喜んで、してくれそうだぜ!
とにかく思うことは一つだ。
瑞樹にはもう二度とあんな苦労して欲しくない。
函館は……オレが傷つけて奪った時間が存在する居場所なのに、瑞樹は幸せになった姿を見せに戻って来てくれた。
嬉しかった!
この目で、しかと見せてもらった。
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