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さくら色の故郷 23-2
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瑞樹の彼女か……懐かしいな。
あれは高校2年の秋か。瑞樹が困ったように俺にだけは相談してくれた。
……
「兄さん……あの、ちょっといい?」
俺の部屋に夜にこっそりやってきた瑞樹。ニキビひとつないスベスベの頬を恥かしそうに染めて、同時に困った顔をしていたから、これはピンときた。
「んだよ? 告白でもされちまったか」
「うっ……何で分かるの?」
「瑞樹は顔に出やすいからな」
「ふぅ参ったな、兄さんには敵わないや」
柔らかく笑う弟の綺麗な顔に、つい見惚れてしまう。
「んで、どうする? 付き合うのか」
「う……ん、その、断ろうと思ったら……」
「断れたのか」
「いや……その、思いっきり泣かれちゃって」
「ははは、んで、受けたのか」
「……困ったな」
瑞樹は、観念したようにコクっと頷いた。
おい、女! 俺の可愛い弟……瑞樹を落とすとはヤルな。
俺の可愛い弟は……極端に嫌われるのを怖がる奴なんだぞ。
「それは足元を見られたな」とは可哀想で言えなかった。
少し前に瑞樹はストーカー事件に巻き込まれて大変だった。しかも相手が変態な男だったから気持ち悪がって、このまま対人恐怖症になったらヤバイと思っていた。だからちゃんと健全に同級生の女の子と付き合って、軌道修正した方がいいのかもしれない。
弟を溺愛する兄として少し寂しい気持ちを押し隠し、背中を押した。
「まぁいいんじゃないか。思い切って付き合ってみろよ」
「そうかな……兄さんがそういうなら、そうしてみようかな」
付き合うと言っても、どうせ高校生同士だ。
奥手の瑞樹に何が出来るわけないと思って楽観的に思っていたが、翌年の夏祭りの神社の境内の木陰で、花火を見ながら彼女とキスをしている瑞樹を偶然見てしまい、胸がズキンと痛んだったよなぁ。
あれは痛かった。なんで俺はこうタイミング悪く、弟のファーストキスシーンを目撃したのか。
やべぇ、滅多に思い出さないこと思い出して、恥ずかしくなる。
どうやら……俺も相当に瑞樹のことが好きだったらしい。
そういえば……あのキスをしていた瑞樹の困った表情よりも、宗吾と、うっとりキスをしていた時の方が、ずっと甘くいい表情だったぜ。
……あの瑞樹は色っぽかったな。
そうだ。これだけは断言できる。
瑞樹が男を愛するようになったのは、きっと俺が溺愛しすぎたからだ。瑞樹は男といるほうが居心地がいいと思っているはずだ。
……なんて都合のよい解釈をして、ついにで宗吾に感謝しろよと言いたくなる。
で、これって……結局、潤も俺も相当なブラコンだったという結論でいいか。
昨日今日と……溢れんばかりに、皆の愛を受ける瑞樹をこの目で見ることができ、兄ちゃんは安心したぜ!
どうか益々の幸せが瑞樹に降り注ぐように、北の大地から祈り続けよう!
それが唯一……この先も永遠に……瑞樹のために俺が出来ることだ。
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