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さくら色の故郷 25-2
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3月には広樹兄さんと潤、お母さんが、大沼で療養中の僕の元に訪ねて来てくれた。
あの時もセイがご馳走を作ってくれ賑やかに食事をした。そして翌日まだ雪深い中、家族で僕の両親と弟のお墓参りを初めてした。 お寺に挨拶もし、きちんと供養させてもらった。
宗吾さんにその話をすると「次はぜひ一緒に行こう」と言ってくれた。それをこんなに早く実現させてくれるなんて、行動力があってすごい。
僕たちは荷物をペンションに預け、歩いて10分程の所にある、お寺へ向かった。
「あれ? 瑞樹はブーケだけでなく苗木まで抱えてきたのか」
「あっはい……潤がこれが僕の分身だと……だから、皆に見せようと思って」
「そうか、俺は何だか緊張してきたよ」
「えっどうしてですか」
見上げると、宗吾さんが確かにぐっと引き締まった真面目な顔をしていた。
「今から瑞樹をこの世に生み出してくれた人に、挨拶するわけだろう」
産みの母の事を、まるで今も生きているみたいに話してくれる……
それがじんわりと嬉しかった。
「ありがとうございます。皆が生きていたら、驚くかな。それとも……」
「親父さんにはガツンと殴られるかもな」
「えっ! うちはそんな暴力的では」
「瑞樹は大事な息子だから。きっとどんな相手でも一発食らいそうだ」
「くすっ僕は女の子じゃないのに、変な言い方ですね。でも……なんだか嬉しいです」
僕はあの事故を境に……自分に自信が持てなくなった。
そんな僕の目の前に、根気よく深く強く愛してくれる宗吾さんが現れた。
殻にずっと閉じこもっていた僕を上へ上へと、引き上げてくれた。
一馬との恋は決して無駄じゃなかった……
だがあれは、どこか傷口を舐め合うような関係だった。
一方、宗吾さんは……自分を取り戻す恋を僕に教え、与えてくれた。
「あのさ……」
「なんです?」
「その瑞樹から、まず話してくれよ。俺のことさ」
いつになく甘えたように訴える宗吾さんが、何だか可愛く感じた。
彼のこういう所も好きだ。最近の宗吾さんは、今までと少し違う顔を見せてくれるようになった。
お互いに……愛されている……愛している。
信じあっているから、お互い、本当の自分を曝け出していけるのか。
それは我儘とはまた違う、もっと嬉しい関係だ。
「もちろんです。僕からも報告します。僕を幸せにしてくれた人だと」
「そう思ってくれるのか」
「はい。僕は……宗吾さんと巡り合えた時から、ずっと成長し続けている気がします」
「瑞樹……それはお互いにだよ」
宗吾さんという水を毎日与えてもらい、僕はグングン成長していく。
胸に抱くこの花水木の苗木も、大沼……僕の故郷で、そうあって欲しい。
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