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さくら色の故郷 26-2
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まぁ驚いた。
息子の、宗吾の、こんなにも真剣な表情は初めて見たわ。
夫が生きていた頃は、宗吾が同性を愛すことが理解できなくて……夫と一緒になって反対してしまった過去の自分が情けない。
人生には『もしもはない』のよね。
過ぎてしまった過去を変える事はできない。
変えられる事が出来るのは「今」と「この先」よ。
だから私は選ぶわ。
全面的にあなたたちを応援することを……
もう私だけの心に従って残りの人生を過ごしたいから、あなた達を見守る母として……芽生の祖母として。
「おばあちゃん、なんだか『けっこんしき』みたいだね。パパとおにいちゃんって『けっこん』したのかな」
「んふふ……そうね。今日はね、その前に瑞樹くんのご家族に報告しに来たのようなものよ。そうだわ。東京に戻ったらレストランでお祝い会でもしましょうか。貸し切りに出来るいいレストランをおばあちゃん知っているのよ」
日本ではまだ同性同士で法的に出来ないのは知っているけれども、私の心の中ではもう二人は結婚したようなものだった。内輪で心で思う分には、いいでしょう。
「本当? したいな。あのね……おばあちゃん、聞いて」
「なあに?」
「ボクね……おにいちゃんのことが大好きなんだ。パパともママとも違うんだけど、ずっといっしょにいてほしい人だよ」
「そうね。瑞樹くんは……あなたにとってはお兄さんと言った方がいいのかしら。立場が難しいけれども……芽生、どうか今日のこの光景と今のその気持ちを忘れないで……瑞樹くんを純粋に慕う気持ちを大切にね」
芽生の小さな手をギュッと握りしめた。
そして私も口に出して、墓前に挨拶した。
「宗吾の母です。息子と瑞樹くんのこと、私が生きている限り見守っていきますから安心してくださいね。そして宗吾の息子の芽生も、ずっと見守っていきます」
「芽生……おばあちゃんと芽生でリレーしましょうね。瑞樹くんを見守ること。約束できる?」
「うん! でも、おばあちゃんも長生きしてよ」
ブンブンと大きく手を振られて、笑ってしまった。
「そうね、あなたの成長もみたいし、がんばらないとね」
「うん!」
やがて二人が墓前に真っ赤なカーネーションを供えた。
「お母さん、長く待たせてごめんなさい。僕を引き取って育ててくれた二人目のお母さんが作ってくれたブーケです」
瑞樹くんはポケットから私が以前贈った数珠を取り出して、手を合わせた。
「それから、今日は宗吾さんのお母さんと息子の芽生くんも一緒です。僕……3人を失ってしまったけれども……3人の新しい家族と過ごしていきます。函館にもお母さん、広樹兄さん、潤の3人がいます。どちらも僕を加えると4人になります。4は幸せの「し」って知っていましたか。四つ葉の四もそうですよね。そして4と4が合わさると……『しあわせ』が生まれます」
「瑞樹……」
「宗吾さん、僕と『しあわせ』を目指してくれますか」
「あぁ、そうだ。前向きに生きて行こう」
お互いに向かい合った宗吾が瑞樹くんの額にそっと口づけを落とす。
柔らかな夕暮れが、ベールのように彼らを包み込み……
どこまでも清らかで美しい光景だった。
あなた、見ている?
私達の息子は、今……こんなにも幸せそうよ。
幸せの尺度は人によって、基準が違うものなのね。
私たちが押し付けるよりも、自分たちで見つけるものなのね……
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