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さくら色の故郷 29-2
……
『ママ、お星さまキレイだね』
『そうね。あの星にはママのおじいちゃんやおばあちゃんもいるのよ』
『えっ……しんじゃうと、星になるの?』
『そうよ。星になって空から私たちを見守ってくれるのよ』
『いつか……ママもあそこに行ってしまう?』
急に寂しくなって母に抱きついた。
まだ僕がとても小さい頃の記憶だ……
夏樹は生まれていなかった。
母のお腹はまあるく膨らんでいた。
『ふふっまだまだそれは先よ』
『ずっとそばにいて』
『うん……そうだ、瑞樹、このお腹の赤ちゃんもあのお空の星からやってきたのよ』
『そうなの?』
『人はこの世に生まれて……この世を懸命に生きて、やがて死んでいくものよ』
『ふぅん?』
母の言葉は……難しかった。
これから生まれてくる子も死んだ人も空に沢山いるのか。
そして地上に舞い降りて、僕たちは、今を生きているのか。
今なら……そんな風にも思えるが。
『ママも大好きな瑞樹のこと、ずっとずっと見守っていたいな。でも、もしも死んじゃったらあのお空の星になって見守るわ。覚えておいてね』
少しだけ怖くなって、その晩は母の胸に深く抱かれて眠った。
僕は弟が生まれるまで、甘えん坊だった……
……
「瑞樹どうした?」
「僕の家族も……あの星になって見守っているのでしょうか」
「そうだな。きっとそうだよ」
宗吾さんが僕の腰に手を回してグイっと引き寄せる。
僕たちは囁くように口づけを交わす。
「あっ……」
啄むような口づけをしては、微笑みあった。
「宗吾さんもう帰らないと……それに」
「それに? 」
「星に見られているような気がして、ここは落ち着きません」
「ふっ可愛いことを言うんだな」
宗吾さんが甘く微笑んだ。
その様子にドキっとする。
こういう時の宗吾さんは、何だかすごく格好良いから……ズルい。
慌てて起き上がろうとすると、宗吾さんが僕の上に覆い被さってきたので驚いてしまった。
「駄目ですよ。こんな場所で」
「だが、こうすれば星からは見えないだろう」
「あっ」
ぴったりと唇を重ねられると、僕の視界は宗吾さんだけになった。
まるでこの世界に宗吾さんしかいない時間旅行に出たような不思議な心地になる。
「もう寂しがるな。もう俺がいるだろう」
「はい……そうです……宗吾さんがいます」
僕も宗吾さんの背に手を回し、彼をきつく抱きしめた。
夜空の星に心細くなっていた僕の心ごと、抱きしめてもらう──
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