さくら色の故郷 30-1

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さくら色の故郷 30-1

 満天の星空の下で、口づけは止まらない。 「あっ……うっ、もう……」 「駄目だ。もう少し」  宗吾さんが僕の唇、頬、額、耳たぶ、いろんな場所に口づけをしてくれる。  嬉しい……こんなに求めてもらえるなんて。  だから僕の方も必死に受け止めていると、更に激しい朦朧となる程の甘美なキスが降って来た。  僕からキスの合間に告げる言葉はひとつだけ。 「もう……宗吾さんだけです」  宗吾さんが僕の星になってくれる。  夜空に瞬く遠い空じゃなくて、すぐ近くにいつもいてくれる星がいい。  何度か告げたメッセージは、何度でも告げたいメッセージ。  もう僕は言葉を惜しまない。  こんなにも僕のことを考えてくれるあなたを失いたくないから。 「宗吾さんだけは……離したくない」 「ふっ嬉しいことを。あんまり煽るなよ。止められなくなるだろう」  僕にしては大胆なことを告げてしまったかも。  こんな独占欲があるなんて──  ずっとこんな風に、欲しいものを欲していいなんて知らなかった。  一人生き残ってしまった人間だという潜在意識が、何かを強く求めたりしてはいけないと、僕自身を無意識のうちに制御していたのかもしれない。  それでいて求められるのが嬉しい癖に。 「瑞樹。君はもっと大胆になれよ」  宗吾さんが僕の髪を指に絡めながら、低く痺れるような声で甘く囁いてくる。  痺れる── 「くすっ宗吾さんが言うと……何故だか卑猥ですね」 「おいおい、俺のキャラを勘違いしていないか」 「すみません……なんだか急に照れ臭くなってしまいました」  彼の大人っぽい笑い方が格好いいと見惚れていると、また唇を奪われてしまった。 「んっ、もうっ──」  いつまでも交わしていたくなるほど、甘美なキスで満たされる。 「ごめんな。もう止めないと。芽生も待っているし」 「……ですよね」  お互い困ったような顔を浮かべながらも、目が合うとキスが止まらない。    月明り、星明りだけの世界で見つめ合う恋人同士は、いつだって皆、同じような表情をしているだろう。 「あぁこれはまずい。なぁ少しクールダウンしてから帰ろう」 「あっ僕も……」  お互いのズボンを嵩高く押し上げるものに気まずさが募り、二人共、体育座りで隠す羽目になった。 「あーそうだ。ロイヤルミルクティーを飲むか」 「そうですね。せっかく作ってもらったし」 「ほら飲んで」  マグカップから漂う湯気が頬にあたり、ホッとする。  僕の唇は宗吾さんとの口づけを受けとめ、まだしっとりと濡れていた。名残り惜しい気持ちを押し隠し紅茶を口に含んだ。 「瑞樹は他に何が好きなんだ? もっと君のことを教えてくれよ」 「えっ」 「セイくんに負けるのは悔しいからな」 「そんな……」 「まぁこれから長く一緒に暮らしていけば、どんどん増えるだろうが少しリードさせてくれ」 「くすっ、僕が好きなものなら、もう……いつも同じですよ」 「うん?」 「その、僕を愛してくれる宗吾さんがいつも一緒にいてくれるので、って、あーなんだか恥ずかしいです」  宗吾さんが子供みたいな顔で身を乗り出してくるから、照れ臭い。 「なぁロイヤルミルクティーよりも俺が好きか」 「当たり前ですよ」  宗吾さんって、なんて恰好良く可愛い人なんだろう。  いつも和ませてもらっている。  口に含むロイヤルミルクティーよりも、ずっとずっと甘い僕らの会話は二人だけのもの。 「勝ったな!」 「一体何と競争していたんです?」 「でも俺もミルクは好きだよ、特に君の……」  慌てて、それ以上喋らないように彼の口を塞いだ。 「宗吾さんっ、もうストップです! せっかくのいいムードが台無しです!」 「はははっ、悪い」  満天の星空がシャワーのように降り注ぐ小高い丘で、僕らは肩を大きく揺らした。せっかくのいいムードは吹っ飛んでしまったが、こんな風に曝け出せる相手がいるって幸せだ。  ここは僕の故郷だ。  そう思えるのも、宗吾さんがすぐ傍にいてくれるから。
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