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さくら色の故郷 31-2
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「瑞樹、お休み。芽生のこと頼むぞ」
「はい、また明日、おやすみなさい」
芽生くんはかつての子供部屋の僕のベッドで既に安定した寝息を立てていた。だからそっと音を立てないように、芽生くんが温めてくれていた布団に潜りこんだ。
何だか不思議な気分だな。
このベッドによく弟の夏樹が潜り込んできて、体温を分かち合って眠ったの日が、つい先日のように感じる。
幸せな過去がこんな身近に感じたことは、今までなかった。
もう二度と訪れないはずの優しい時間が、姿や形を変えて、懐かしい思い出よしてすぐ傍にやってくれる。
それは僕が自分を許し、幸せだと感じられるようになったからなのかもしれない。
「おやすみ、芽生くん。お休み……僕の部屋」
きっと今日はとてもいい夢が見られるだろう。
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「母さん、その、今日はいろいろとありがとうございます」
この歳になって母と旅行する事自体が珍しいのに、同室で眠るなんて照れくさい。だが母さんには頭が上がらない。
「宗吾、良かったわね。あなたは本当にいい子と巡り合ったわ」
「母さんには瑞樹の事を、そこまで受け入れてもらえると思わなかったから、俺はまだ信じられないよ」
「大事にしなさい。瑞樹くんは絶対に粗末にしてはいけない子よ。分かっているわね」
こうやって瑞樹の実家や生家を訪ねる旅をしていて、実感していたことだ。
それを母にも同時に感じ取ってもらえて嬉しい。
「あぁ肝に銘じるよ」
「宗吾に……ひとつだけお願いしてもいい?」
「何です?」
母は少し改まった口調になった。
「あのね、瑞樹くんと一緒に暮らすだけでなく、彼にきちんと居場所を与えて欲しいの」
「あっ同感です。実は俺も東京に戻ったら、その辺りのことを真剣に考えてみようと」
「そうなのね……それなら安心したわ」
「また母さんにも相談します」
本当にその通りだ。
瑞樹との関係……ただの同棲より、もっと深く確かな存在として安心させてやりたい。
「あなたたちは、まるであたたかい陽だまりのようだわ。三人揃うと、光輝くように眩いわ」
「母さんから、そんな風に見えているのなら嬉しいよ」
「えぇ宗吾と芽生そして瑞樹くん。あなたたちは本当に、私にとって大切な存在よ」
大切な存在は、恋人同士だけじゃない。親と子の間に存在する。
「俺こそ……俺の母さんが母さんで良かった」
「まぁ、あなたからそんな台詞が聞けるなんて驚いたわ。あなた本当に変わったのね……それは瑞樹くんのお陰ね」
「そうだ、全部……」
こんな優しい会話を年老いた母と紡げるのも、俺にとって『幸せな存在』の瑞樹のおかげだ。
それだけの想いを託せる相手と巡り合えて……よかった。
お知らせ(不要な方はスルーでご対応下さい)
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こんにちは志生帆海です。
昨日『幸せな存在』は6万スター達成しました。
毎日読んで下さりスターを贈って下さりありがとうございます。
『幸せな復讐』という1万文字の短編を、300話……68万文字にまで膨らますことが出来たのは一緒に楽しんで下さる読者さまのお陰です。
本日後程30スター特典の更新をしました。
https://estar.jp/extra_novels/25510941
エロ可愛い瑞樹です♥
これからも宗吾さんと瑞樹、それを取り巻く人の幸せな物語
一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
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