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さくら色の故郷 35-2
乳搾りの後は、新鮮な牛乳をたっぷりと飲ませてもらった。
瑞樹とふたりで丸太のベンチに座りながら、牧歌的な草原を眺めていると、どこまでも長閑な気分になってくる。
「なぁ瑞樹は、乳搾りやったことあるのか」
「それはもちろんありますよ。僕は正真正銘、大沼生まれの大沼育ちですから」
「へぇ……じゃあ絞るのはかなり上手いんだな」
「それはまぁ普通には出来ますが……なんで? アッ……もうっハハっ」
もう引っかからないと言った顔つきで、瑞樹が苦笑した。
底抜けに明るい笑顔で!
俺達、明るくなったよな。
特に瑞樹、お前は……泣いてばかりの切なかったあの日々が、嘘のように吹っ切れたな。
「宗吾さん……やっぱりここはいいですね。北の大地はしっくりきます」
「あぁ……冬は傷を治すので精一杯だったが春は違うな。花が咲くように君にも新しい面がどんどん芽吹いて、そして咲いていくようだ」
「ずるいな……宗吾さんはカッコいいです。さっきとは別人で……」
拗ねたように言うのだから、可愛いものだ。
「なぁここだけの話、さっき俺とキノシタの仲に妬いただろう?」
「……うっ、あいつスキンシップ多すぎで……僕の宗吾さんなのに、あっ」
「うれしいよ。瑞樹からの独占欲を感じられて」
「それは、僕だってありますよ……男ですから」
そう言いながら遥か彼方の青空を見つめる彼の瞳は、どこまでも澄んでいた。
そうだ、瑞樹も俺も……男同士なのは事実だ。
その事でこの先、君と歩む人生は幸せなことばかりではないかもしれない。
でもいつだって俺達の原点はここだ。
今日こうやってすっきりした気持ちで見上げた青空を思い出せば、きっと道を間違えずに進んでいけるだろう。
「あっ……桜の花びらですね」
瑞樹が手を風に委ねるように伸ばすと、彼の細い指先に桜の花弁が舞い降りて来た。
大沼湖畔に咲く桜が風に乗って、ここまでやってくるのか。
風が見えるな。
いや……風は目に見えないが、こうやってちゃんと存在することが分かる。
俺と瑞樹の愛も目には見えないが、この世にちゃんと存在している。
大地に根付いた愛を育てていこう!
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