さくら色の故郷 36-2

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さくら色の故郷 36-2

「すみませんが。そちらから私たちの写真を撮ってもらえますか」 「あっはい……僕でよければ」  瑞樹は明らかに緊張している様子だった。こういうシチュエーションに慣れてないと分かり、思わずニヤリとしてしまう。それでも写真は得意だから真面目に対応していた。 「では撮りますね」 「はーい♡」  皆、同じような満面の笑みを浮かべていた。    大学生位の女の子3人は綺麗にお化粧して可愛い方だとは思う。瑞樹の顔を思わず盗み見すると、緊張しているものの柔らかい営業スマイル(だと思いたい)を浮かべていた。   「これでいいですか。よかったらご確認ください」 「あっはい。あっちょっとだけ待ってくださいね」  女の子の一人が画面をタッチして何やら素早く入力し、もう一度瑞樹にスマホを渡した。瑞樹は意味が分からないといった様子で差し出された画面を見て……瞬時に頬を染めた。    なんだ? おいっ一体何が起こった?  横目で見ていた俺も身を乗り出しそうになった。 「……すっすみません」  瑞樹は蚊の鳴くような声で、頭を横にふるふると振った。  お! それってNOのサインか。  「わーんやっぱりそうですよね。あーん残念です。アッでも気にしないでください。ご家族旅行中にお邪魔しました。旅を楽しんでくださいね」 「……はい、ありがとうございます」  慎ましやかな瑞樹はすまなそうに頭を下げ、そのまま女の子達との視線をさりげなく逸らした。  だが……また何やら余計な言葉が聴こえてくる。 『あーん、やっぱり当然よね、あんなカッコいいんだもん』 『やっぱり家族旅行中なのね。可愛い弟さんとおばあさんと……ねぇあの右隣のオジサンって何者? お父さんではないような? うーむ。なんかひとりだけ……違くない? 』 『うんうん! 激しく同意!』  オ、オ……オジサンって俺のことか。  おいっ!いきなり失礼だぞ!  大人げなく思わずスプーンを置いて怒鳴りそうになった。  すると瑞樹が慌てて机の下に手を下ろし、俺の手を握ってくれた。 (宗吾さん気にしないでください。僕はあなたしか見ていませんよ)  そんな風に囁くような優しい手の動きで、制された。  あぁ本当に気の利く可愛い君が、やっぱりすごく好きだ。  それにしても瑞樹がこんな風に女の子にモテるのを目の当たりにすると、気が引き締まる。  俺はもっともっと瑞樹を惚れさせたいと、男の血がムラムラと騒ぐぜ! 「どうどう……」  ん? 今度は変な声が聴こえてくるぞ。  声の主を探すと瑞樹の左隣の芽生がブツブツ呟いていた。しかも目が合うとにっこり笑って「パパーお船、楽しいね!」と、俺に向かって大声で叫んだ。  やるなぁ……流石わが息子だ。    女の子たちはキョトンとした顔で首を傾げていた。 『あの人があの子のパパ? んん? それってどういうことー』 『……謎だわ、まさかね……えっ、その、まさかなの? 』 「本日はありがとうございました。気を付けてお降りくださいませ~」  やがてクルーズは終わり、皆、順番に下船した。  瑞樹は下船した後、さっきの女の子たちに軽く会釈したが、あとはもう振り返らなかった。    そのまま駆け足で俺の横に並び、いつものようにニコと甘く微笑んでくれた。 「宗吾さん、美味しかったし、楽しかったですね!」  あぁ瑞樹はやっぱり俺のものだと、じわっと熱い思いが込み上げてしまう。  東京に戻ったら思う存分彼を愛したい。  そんな欲望がまた芽生えてしまう。
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