さくら色の故郷 37-2

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さくら色の故郷 37-2

「ここで少し休憩しよう」 「あ、はい」  ちょうど大沼へ続きウッドデッキが敷かれたような道があったので、一旦自転車を止めて、僕たちは歩きだした。  なんだか気持ちが高揚し宗吾さんと手を繋ぎたい気分だったが、まだ人目があるので叶わなかった。その分、触れ合うような近い距離をとった。  大沼湖の水打ち際まで木道を歩くと、古びたベンチがあった。 「ここに座ろうか」 「はい」  座ると真正面に大沼越しに駒ヶ岳がどっしりと構えている景色が見えた。 「まさに大自然を満喫だな」 「宗吾さんが大沼を楽しんでくださって嬉しいです」 「あぁ楽しんでいるよ。よしっ……ここには誰もいないな」  そう言われて見渡すと、木立の陰にも人はいなかった。 「ですね……」  そっと宗吾さんが首を傾けて近づいて来た。  キス……?   僕の方も宗吾さんに触れたかったので、そっと目を閉じた。  淡い爽やかなキスだった。  あの日ピクニックで……傘の陰に隠れて交わしたように、新緑の味がする口づけだった。 「ふぅ、やっと君に触れられた」 「あ……僕もそんな気持ちです」 「さっきは……」  言葉が重なった。  きっとその先は同じ言葉だ。 「結構妬いたぞ。簡単に女の子に言い寄られて……全く油断も隙もないな」 「そんな……宗吾さんこそ、キノシタにもオオクボにも言い寄られていましたね」 「ぷっ瑞樹よーそれはちょっと違くないか。しかし参ったよ。瑞樹は普通に女の子にモテモテだな」  宗吾さんは神妙な顔つきだった。 「そんな……あの、それは……すぐお断りしましたし」 「あっ、やっぱり誘われたんだな」  宗吾さんからそこを突っ込まれると妙に照れくさい。  確かに渡されたスマホの画面には『誰かお付き合いしている人いますか。いなかったら私達と連絡先交換してください』と積極的にアプローチされていた。 「僕には……宗吾さんが一番ですから」 「ありがとう。瑞樹」  もう一度宗吾さんがキスしようと顔を近づけて来た瞬間、背後から黄色い声がした。  うわっ……嫌な予感!  ハッとふたりで振り返ると、ランチクルーズで同乗した女の子たちとバチっと目が合った。  すまなさそうに謝られて慌てて引き返していく様子に焦ってしまった。でも同時に少し可笑しくもなってしまった。僕たち大胆過ぎだと。  旅は人を大胆にさせるのか。普段だったらありえない気持ちになっていた。   「……宗吾さんといると、僕は少し変になりそうです」 「おぉそうか。東京に戻ったら……おかしくなる程抱いてやるからな」 「えっ」  僕は宗吾さんに惚れている。惚れた弱みなのか、そんな言葉にも甘い期待を抱いてしまうなんて……もうっ、これってかなりの重症だ! 「俺、瑞樹に弱くてな……君をもっと笑わしてやりたいし、俺といて気持ちよくもさせたい。頭の中そんなことばかりだ」 「宗吾さん……僕は今充分……気持ちいいですよ」 「ん? 本当か? ならもう一度」 「それは余計です!」
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