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さくら色の故郷 38-2
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やはり不安になり、聞いてしまった。
「宗吾さん……あの、さっきの見られてしまったかも。大丈夫でしょうか」
「あぁ……遠目だった。気にするな」
僕はまだこういう状況に慣れず動揺してしまうのに、宗吾さんは堂々としている。座っていられなくなり、モゾモゾとしてしまう。
「少し落ち着け」
「はい……」
そのままベンチの上で僕をなだめるように手を繋がたので、ますます落ち着かない。また人が来たらどうしよう。
「あっあの……」
「瑞樹……顔を上げて前を見ろ。自然は雄大だな。世界は広いし、空はどこまでも深い」
「……そうですね」
「広い世界には俺と瑞樹みたいな関係があってもいいと思うが、どうだ?」
「あっ……はい」
宗吾さんがそう言ってくれると、僕もそう思える。
「恥じることない。万人に理解されなくとも、一番理解して欲しい人に、俺も瑞樹もちゃんと理解されているのだから」
「あ……確かに」
目を閉じると浮かぶのは、函館のお母さん、広樹兄さん、潤の顔。そして宗吾さんのお母さんと芽生くん。今の僕にとって一番身近な大切な人たちの笑顔だった。
「なっ十分だろう?」
「はい……本当にそうですね。何だか安心出来ました」
「んじゃ、おまけでもうひとつな」
早業で唇を軽く奪われ「もう!」っと苦笑してしまった。
敵わない……宗吾さんには参ったな。
ピンチをチャンスにではないが、僕がマイナスな方向に凹むと、すぐにサポートして押し上げてくれる人だ。
あなたとの口づけは、僕を魅了する。
本当は僕だって今ここでしたかった。してもらえて嬉しかった。
「さてと、そろそろ行くか。芽生たちも待ってるし」
「ですね」
「そうだ。今度は……瑞樹が前を漕げよ」
「えっいいんですか」
「もちろんだ」
今度は僕が舵を切る。
宗吾さんが僕の呼吸に合わせて自転車のペダルを漕いでくれる。
任されたことが嬉しくて、ペダルを漕げば漕ぐほど、自信が溢れてくるようだ。
背後からしっかりアシストされているのが分かり、どこまでも安心して僕は進んで行ける。
僕らを吹き抜けていく北国の薫風が心地よかった。どこまでも爽快で、滞っていた想いが、どんどん吹っ切れていく。
幸せになろう!
僕の幸せが周りを幸せに出来るように──
やがてゴールが見えてくる。
芽生くんが白いゴールテープの代わりに、白い花束を持って出迎えてくれた!
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