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花束を抱いて 1-2
「やっぱり自宅はいいな。落ち着くな」
「ですね。旅もいいですが家に戻ってくるとホッとします。って……何だかすみません」
「何を謝る?」
「……厚かましいのですが、ここが僕の自宅みたいな気分になってしまって」
「可愛いことを。ここはもう瑞樹の自宅だ。もう、どこにもやらないからな」
「あっ……ハイ」
「覚悟しておけ!」
彼が恥ずかしい中に嬉しさを噛みしめている様子が伺えたので、俺もどんどん上機嫌になっていく。
「ほら、それ飲んでしまえ」
「くすっ、僕を酔わしてどうしようと?」
「どうされたい?」
そういう聞き方をわざとすると、瑞樹は頬を赤らめた。
夜風に吹かれて瑞樹の髪が乱れる。途端に色香が滲み出す。
「宗吾さんは意地悪ですね」
「そうか」
風に吹かれた前髪が彼の表情を隠したので指を伸ばし整えてやると、額が少し汗ばんでいた。芽生をおんぶしたせいなのか。それとも緊張しているのか。
「あっ、汗……すみません」
慌てて身を引こうとする彼の腕を掴んで制止した。といってもいつまでもベランダで交わす会話ではない。
ここからは大人の時間だ。
「風呂に入るか」
「……はい。汗をかいたので、そうさせて下さい」
「よし、じゃあ行こう」
「え?」
「一緒に入ろう!」
「えぇ?」
そのまま驚く彼をエスコートするように、脱衣場に連れて来た。
「来いよ。脱がしてやる」
「えっそんな」
「前夜祭だ。早くしないと当日になってしまう」
「それは……理由になっていませんよ。あっ」
口では抵抗しつつ瑞樹は俺に身を任せてくれるので、彼のシャツの釦をひとつひとつ、わざとゆっくり外し、どんどん肌色に剥いていく。
抵抗はしないが相当恥ずかしいようで、伏せた睫毛が震えていた。
「さっと洗ってやるから、そう心配するな」
「でも宗吾さんのことだから……心配です」
「うっ……それは俺もだ」
「もうっ……」
彼が着ていたシャツを袖から抜いて、はらりと床に落とす。
「あっ」
両胸の突起が緊張でツンと立ち上がっていた。
「早く抱きたい」
率直な飾らない言葉がついぽろっと零れてしまう。
「随分大胆ですね」
こういう時の瑞樹は色香が増している。
いつもの清楚な雰囲気とのギャップがいい。
「嫌か」
「いいえ」
上半身裸になった瑞樹がふわっと花のように笑って、俺のことを背伸びして抱きしめてくれた。彼にしては大胆な行動は、さっきのビールのせいか。
「そんな宗吾さんも……結構好きですよ」
「ははっ、だいぶ免疫がついたな」
「どうやら、そうみたいです」
今日の瑞樹はいい感じに力が抜けていた。
きっと……旅行を経て、強張っていた心と躰が解けだしているのだ。
そんな彼と過ごす一夜が、楽しみだ。
俺の元で、もっともっと自由に咲いて欲しい。
咲き乱れる程に。
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