花束を抱いて 3-2

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花束を抱いて 3-2

****  胸に抱く瑞樹が寝入るのを、静かに見守った。  眠そうな仕草をし出してから、あっと言う間に寝息を立て始めてしまったな。  さっきまでの色香はすっかり消え去り、幼子のような寝顔になっていた。  君は……すごいよ。  どれだけ俺を信頼し、俺を愛し、俺に躰の隅々まで明け渡してくれるのか、数字では測れないものを与えてくれる。  君の明るい栗色の髪の毛が弄るのが好きで、眠ってしまってからも指に巻き付けたり撫でたりと愛撫し続けた。  俺は瑞樹となら、こんなにも繊細になれるのか。その事に驚くよ。  今までの我が道を突っ走ってきた人生とは、真逆の生き方を楽しんでいる。  ずっと自分の快楽や感情優先だった俺は、変わった。  瑞樹を抱くと、それを顕著に感じる。    彼に気持ち良くなってもらいたくて、必死だもんな。  瑞樹の寝息、瑞樹の身じろぎ、ささやかな音すらも、今は愛おしい。  彼が醸し出す音に耳を澄ましているうちに、俺も眠くなってきた。  やがて気が付くともう朝になっていた。  瑞樹の誕生日を刻むために枕元に置いていた時計を見ると、もう7時前だった。  旅行帰りで疲れていたのに、お互い激しく動き、ぐっすりだったわけか。  芽生が起きる前に早く服を着ないと。  起き上がると、ベッドの振動で瑞樹も目を覚ましたようだ。 「ん……あっ、あの、おはようございます」 「ん、おはよう」  そのままお互い自然に、『お・は・よ・う』のキスをした。   「瑞樹はまだ横になっていろう。まだ躰がキツイだろう」 「いえ、もう大丈夫です」  瑞樹も起き上がったが、やはり少し辛そうに顔を歪めたので、俺の胸に背をもたれさせてやった。 「宗吾さん……少し、腰が痛いです」 「すまん」 「大丈夫ですよ。こうしていれば」  甘えているのだ。そう思うと愛おしさが込み上げて、彼を再び背後から強く抱きしめてしまう。 「今日は……いい1日になりそうですね」  そう言いながら振り向いた笑顔が、五月の空のように澄んで爽やかだった。  うっすらと桜色に色付いた唇に、函館の桜を思い出した。  俺に抱かれた瑞樹の顔があまりに綺麗で、なんだか照れくさくなって、返事の代わりにまた唇を塞いでしまった。 「あっ……」  まずいな。これではまた繰り返しだ。そう思うのに、君との甘美な口づけは止まらない。 「宗吾さん、もう──」 「誕生日だから特別だ」 「それ、何か変です……」 「いやか」 「ずるいです」  再びシーツに押し倒した君を見下ろすと、甘い瞳で俺を見つめ返し、そっと目を閉じてくれた。  口づけを深めると彼が身じろぎする。  その度に甘やかな香りが生まれる。 「今日は……どこに行きたい?」 「宗吾さんと芽生くんと過ごせる場所なら……どこでも」    本心で言ってくれるのが分かるから嬉しい。  瑞樹の言葉に、裏表はない。 「特別な何かではなく、当たり前の日常が……僕は一番嬉しいです」  家族を失ったことのある君だからの言葉だ。 「あぁ、いつもの1日を君に贈ろう」 「はい……ぜひ!」    
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