花束を抱いて 4-2

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花束を抱いて 4-2

 そんなことを考えながら過ごしてきたせいか、最近の僕は少し貪欲だ。  僕がしたいことをちゃんと口にでき、行動できるようになってきた。  宗吾さんに『今日は恵比寿に出かけて、デパートで僕のプレゼントを選び、そのままホテルでフルコースディナーをしよう』と最初言われたが、それはまたいつかの楽しみにさせてもらった。  今はまだ幼い芽生くんと、こんな風に……家でのんびりするのが快適だ。  そして何より僕自身が、日常の……のどかな時間を熱望していた。  物思いに耽っていると、芽生くんは子供部屋の本棚の前にしゃがみ込み、集中して絵本を読んでいた。  笑窪のあるふっくらとした幼い手で、たどたどしく本のページをめくる仕草が可愛い。 「何、読んでいるの?」 「あ……おにいちゃん、この絵本のここがねぇ、メイ、ダイスキなんだ。何度も読んじゃう」 「そういうのわかるよ。ふぅん……お気に入りなんだね。どれ? 見せて」 「うん! ほらみてー コレおいしそうでしょう」  芽生くんが指さすのは動物たちが森で大きなケーキをフライパンで焼いているシーンだった。ケーキは、こんがりキツネ色でなんとも美味しそうだ。 「あっ……これ、僕も読んだことあるよ」  昔から定番の絵本で、大沼の子供部屋にもあったな。  懐かしいし、楽しい思い出があったような……  そこからふっと記憶が蘇ってきた。 「そうだ! このケーキ、僕は食べたことあるよ」 「えぇ? 本当につくれるの?」 「うん。僕のお母さんが作ってくれて」 「いいなぁ。メイも食べたいな」 「あ、もしかして」  慌てて大沼でセイに渡された母のレシピノートを取りに行き、中を探すと、やっぱりあった! 『絵本の中の夢のケーキ』と題して、しかもその横に『ミズキのお誕生日に作ったら喜んでいたから、リピート決定!』と書かれていた。  明るくて優しかった母らしい一言だ。 「これ作ってみようか」 「本当に? じゃあおにいちゃんのお誕生日ケーキはこれだね」 「うん!」  材料は小麦粉、卵、砂糖、牛乳と書いていある。これなら特別のものは必要ないな。家にあるシンプルなもので出来るのも、うれしかった。  宗吾さんに話すと「ケーキくらい近くの店でホールケーキをと思ったのにいいのか」と驚かれたが、これを食べたいとお願いした。みんなで作りたいとも。  こんな風に、僕はこの家に溶け込んでいく。  これでいい。    これが僕が敷いたレールだ。  ゆっくり走って行こう。    僕たち3人で……  今日はシンプルに優しい1日を過ごそう!    
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