花束を抱いて 5-1

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花束を抱いて 5-1

 子供部屋の次は、宗吾さんの寝室を今日こそ掃除しよう。  もう徹底的に! 「おにいちゃん、カクゴはいい?」 「うん」 「それぇぇー」  僕が来てからこの部屋の本格的な掃除は初めてだ。芽生くんと掃除機やモップを持って乗り込むと、慌てた宗吾さんに制止された。 「おいおいちょっと待て! 瑞樹ぃ……今日はお手柔らかに頼むよ」 「いえ、今日こそは徹底的にベッドの下を大掃除させてください」 「なぁ……大掃除なんてしたら、君の望んだ普段の1日じゃなくなるだろう」 「うっ」  それはまぁ確かにそうだけれども……  僕がこの家に引っ越してくるにあたり、巨大なキングサイズのベッドを置いてもらえたのは嬉しかったが、置く前にベッドの下をちゃんと掃除したのか心配になる。たまに大きな埃の塊に遭遇するので、ベッドの下にはモコモコの灰色の埃がたっぷり溜まっていそうで怖くなる。 「さぁ掃除はもう終わりにして、そうだ、芽生を風呂にいれてくれないか」 「あっ!そういえば芽生くん、お風呂まだでしたね、昨日眠ってしまったから」 「そうそう」  そんな訳で午前中はからもう一度風呂に入ることになった。  浴室に入ると急に照れくさくなった。  昨日僕は……ここでも宗吾さんに抱かれた。    幼い芽生くんがいる家で行われる宗吾さんとの色めいた事……その時も恥ずかしいが、後からも相当恥ずかしい。 「おにいちゃんも早く早くー」 「うっ、うん」  こんな風に昔……弟の夏樹をお風呂に入れてあげた。あの子はシャンプーが嫌いで泣いて大変だったが、芽生くんはお風呂が大好きだ。早速、湯船に浸かって黄色いアヒルの親子をお湯に浮かして遊んでいる。  僕は芽生くんの部屋の埃だらけのプラレールで薄汚れていたので、泡立てたスポンジで丁寧に躰を洗っていた。すると突然芽生くんが大きな声を出したので、驚いた。 「あっ!」 「どうしたの?」 「お兄ちゃん、ここどうしたの?」  心配そうな表情を浮かべた芽生くんに、首元を指さされたので首を傾げた。  ここ? 「何かついてる?」 「うーん」  鏡に映る自分の顔と目が合う、そのまま首筋を辿ると…… 「あっ!」  身に覚えはある……大いにあった!  昨日宗吾さんに首筋を吸い上げられた時に付いた痕だ……これっ!  俗にキスマークと言われる、所有の証。  しかも一つじゃない。シャツでギリギリ隠れそうな所から、胸元付近まで沢山散らされている。何でもないで誤魔化せるレベルじゃないよ! どう答えていいのか分からないので、結局…… 「なっ、なんでもないよ」  無理があるなぁ、これ。 「うそだ! おにいちゃんケガしてる!」  芽生くんが湯船から飛び出てきて、必死に僕の腕を引っ張った。 「どっどうしたの?」 「ほら、夏に海に行ったときお風呂の浸かると治るって、おいしゃさんが言っていたから。あぁもうボクじゃだめだ。そうだ!またパパを呼んでくる!」 「えっちょっと、ちょっと待って!」  芽生くんは裸のまま、風呂場から飛び出して行ってしまった。  あの時の洋くんの居たたまれない表情が、まさに今の僕だ。  恥かしい、恥ずかしい……!
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