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選び選ばれて 3-1
ふぅ、なんとか指定時間内に、全ての活け込みを終わらせる事が出来た。
今日はハプニングが続いたせいで、焦ってばかりで……少し疲れた。
「おぉ葉山、なんとか間に合ったな」
「リーダー!」
僕の所属部署のリーダーはまだ40代だが、絵に描いたような素晴らしい上司で、入社以来ずっと尊敬しているし可愛がってもらっている。
有難いことに僕の特殊な事情を、すべて理解してくれている。あの軽井沢の事件で全てを察し、全てを受け入れてくれた人だ。
「すみません。途中でハプニングがあって制限時間ギリギリになりました」
「うん、聞いたよ。薔薇の予備はもう少し持ってくるべきだったな」
「すみません、その通りです」
ご尤もな話だ。準備不足の僕が全部悪い。少し悔やんで唇を噛みしめ頭を下げると、クシャッと髪を撫でられた。
「だが頑張ったな。それにしてもあの追加の薔薇はどうした? こっちが準備した物よりもずっと立派だったが」
「あの、助け舟が……たまたま通りかかった初老の男性が提供して下さったのです」
「ははっ君はついているね。そして相変わらず老若男女からモテるな」
「リーダーっ!」
「悪い悪い。そうか、あの白薔薇はどこかで見たと思ったら……」
「あの、何か」
「君はあの薔薇の名を知っているか」
「いえ、少し改良された白薔薇のようで……あいにく名前までは。勉強不足ですみません」
厳かな気品の漂う楚々としたあの白薔薇の名は、何というのだろう。
世界中から人気の高い薔薇には25,000を超える品種があると言われ、今も品種改良が進められている。だから花業界に身を置いていても、知らない品種が沢山あるのが正直なところだ。
「いや知らなくても責めないよ。何しろあれは滅多にお目にかかれないからね。日本でも限られた場所にしか咲いていない門外不出の薔薇だよ」
「名前はなんと?」
「国産の『柊雪』と言う名だ。きっと白い雪のようの真っ白な花弁だからだろう」
「……でも『柊』なんて、他の植物の名前をつけるなんて珍しいですね」
「ははは、きっと作った人の恋人の名前だったんじゃないか」
「えっそうなんですか」
「想像だよ。想像! その方が面白いだろう」
「リーダーはロマンチックですね。僕もとても気に入りました。あの、どこに行けばあの薔薇が咲いている姿を見られますか」
何故だかぐっと心に響き、残る花姿だったので、興味を持った。
「あぁ確か白金だったかな。庭園レストランになっているから、一度行ってみるといいよ。良い勉強になるだろう。情報はあとで送っておくよ」
「はい! ありがとうございます」
もしかしたら、僕を助けてくれた初老の男性はその庭園の持ち主だったのかもしれない。
だとしたら、凄い縁だ!
また宗吾さんと一緒に行ってみたい場所が増えた。
宗吾さんが傍にいてくれると、僕の興味も楽しみとなり、二倍三倍に花開く。
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