選び選ばれて 3-2

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選び選ばれて 3-2

**** 「葉山先輩……今日はすみませんでした!」  情けない顔で、金森が心から済まなそうに謝ってきた。 「いや予備の数を誤った責任は僕にあるし……それより今日はもう帰っていいよ」 「え……でも」 「あとは僕だけで大丈夫だよ。君も今日は疲れたろう。よく休んでまた明日来て欲しい」 「はい……」  普段元気な金森だが、今日は調子が出ないようだ。気持ち悪くなったり転んだりで散々だった。正直これ以上一緒に居ても、今日の金森に出来ることはないのが現実だから……帰らせた。  あと1時間で挙式、続いて披露宴が始まる。  僕は今度は設営から披露宴の内部スタッフとして動くので、持参したスーツを持ってスタッフ用の控え室に入った。  この後は花嫁のブーケや髪飾りなどのチェックのため美容スタッフと連携して動き、挙式ではフラワーシャワーを見守ったり、会場内の花の乱れを整えたりする仕事が待っている。  手早く着替えネクタイを締めていると、勢いよくドアが開いた。 「あれ?」 「あっ」  振り向くと……さっき宴会場で僕を助けてくれた青年が立っていた。 「あっ、さっきはありがとうございます」 「あれ? テーピングが汚れちゃいましたね。あーあぁ泥までつけちゃって」 「わっ! すみません。さっき作業で手こずって」  金森が転んだのを助けたり、泥がついた白薔薇を洗ったりしたからだ。 「もう一度やり直してあげますよ」 「何度もすみません」 「だって、このままじゃ働けませんよね? あなたもこの後、挙式、披露宴のスタッフとして、つきっきりでしょう。えっとあなたみたいな人のこと……何でしたっけ? フ・フラワー……あー俺、お洒落な事に疎くて、言葉が出てこないや」 「フラワーアーティストの葉山瑞樹といいます。すみません。ちゃんと挨拶せずに」 「そうそう。フラワーアーティストだ! 物覚え悪くて、はずかしいっす」  彼はさっきはとてもスマートに見えたが、少し砕けて話すと、とても気さくで素朴な青年だった。なんだろう……故郷の幼馴染を思い出す。 「くすっ片仮名って覚えにくいですよね」 「あー俺は今日の挙式のボディガードを頼まれているんですよ」 「なるほど。あの、お名前を聞いても?」 「ハイ! 鷹野安志(たかのあんじ)と言います! これ名刺です」 「あっ、僕も……」     抵抗なく名刺交換をしてしまった。初対面の人を警戒する癖は相変わらずだが、彼のことは何故か最初から信頼できた。  あの時の感じと似ている。月影寺の洋くん達と会った時の……懐かしく親しみを感じる空気だ。  何故だろう? 今日はよく洋くん達の事を思い出すよ。 「あの、葉山さんの花って……俺……センスないド素人ですが、ぐっと来ました」 「嬉しいです!」 「じゃあ、お互い頑張りましょう!」 「はい!」  爽やかな青年が巻きなおしてくれたテーピングは、彼の清潔で明るい雰囲気のように真っ白で、僕の心も一気にリフレッシュできた。  よしっ後半戦だ!  仕事が終わったら、僕にはちゃんと帰る家がある。  帰りたい家がある。  僕の中ではもう家族なんだ。だから早く会いたい……  宗吾さんに胸を張って、今日の頑張りを報告したい。  そうだな……今日は一緒にお酒を飲みたい気分だな。    可愛い芽生くんにも早く会いたいよ。  少し遊んでから一緒にお風呂に入って、寝よう!  幸せな家が待っているから、頑張れる!   あとがき (不要な方はスルーで) **** 昨日は皆さんを悩ませてしまいましたね。今日は種明かしでした! 白薔薇を分けてくれた人物は『まるでおとぎ話』の雪也です。 そして脚立を支えてくれたのは『重なる月』の安志でした。 他の創作を読んでいないと難しいネタですみません。 もちろん読んでいなくても、この物語内では大丈夫ですので♥ 私は自作内をクロスオーバーさせるのが好きでして、お付き合い下さった読者さまありがとうございます。 しかし今日の瑞樹はいろいろ他の男性との絡みが盛沢山で、宗吾さん焼きもちやかないといいけど…ですよね。そろそろ宗吾さんに私も会いたいので、明日は宗吾さんのお留守番の様子を書きますね!    
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