選び選ばれて 5-1

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選び選ばれて 5-1

 チャペルでの挙式が無事に終わると、華やかに着飾った列席者が次々に出て来た。  僕はフラワーシャワーのためにチャペル前に待機し、花を列席者に配る介添役の背後に立ち様子を見守っていた。  すると中から現れた一人の若い青年に、目が釘付けになってしまった。 「えっ……洋くん?」   いや違うか。洋くんよりは若いよな……でもすごく似ている。  顔の造りやパーツが本当にそっくりなので驚いてしまった。世の中にこんなに似ている人がいるのだろうか。幻かと思って何度か目を擦ってしまう程だ。 「やぁまた会いましたね」 「あっ鷹野さん」 「さっきから何を見ているんですか」 「あの人って……」 「ん? あぁ」    僕の視線を辿った彼は、洋くんに似た彼を見つけ、あぁといった様子で目を細め頷いた。  とても愛おしそうな表情を一瞬だけ浮かべたので、僕の方がドキっとしてしまう。 「彼は有名なモデルですよ。知っていますか」 「すみません。僕、疎くて……」 「さっきから思っていたんですけど、葉山さんは少し彼に似ていますね」 「え? 僕は一般人だし、モデルの彼とは全然似ていませんよ」 「うーん雰囲気かな。俯いた時の感じが似ているかも。どっちかというとヨウの方ですが」  ん? 今、『ヨウ』って言った?    以前、僕はやはり月影寺の人たちに少しだけ洋くんに雰囲気が似ているといわれた。うつむいた時の感じとか。まさか……そんな偶然はあるはずがないと思いつつも、気になってしまう。  だが今は仕事中だ。  もっと詳しく聞きたい気持ちをぐっと我慢して、仕事に徹した。 「おっと、お互い仕事中ですよね。また披露宴会場で」 「はい!」  鷹野さんと別れると、また違う視線を感じたので振り向くと、今度はモデルの彼が僕をじっと見つめていた。  僕というよりは鷹野さんを見ているのかな。何故だろう? ****  披露宴会場でも再び鷹野さんと会ったので、軽く会釈した。  なんだか彼とはとことん縁がありそうだ。鷹野さんの配置が、たまたま僕と重なるだけだろうが。  ボディガードか……格好いい仕事だと思う。  いやいや僕の宗吾さんの方がもっと……  うー駄目だ……また邪念が。 ****  新婦さんのお色直しのブーケやヘア飾りの確認も終わり、今日の僕の仕事は、ほぼ終わったも同然だ。  披露宴のお開きまであと少し……ずっと集中モードで保っているのも疲れ、立っているのが辛くなってきた。  まずいな……貧血を起こしそうだ。  そっと会場を外れスタッフ控室近くの壁にもたれて、ため息を一つ漏らしてしまった。 「ふぅ……何となく仕事の終わりが見えてくると、家が恋しくなってくるものだな」  思わず呟いたのは、少しの弱音。  家が恋しい。  僕がこんな気持ちになるなんて、いつぶりだろう。  大沼で暮らしていた頃は、放課後はセイたちとよく野原で遊んだ。でも夕方になると急に家が恋しくなって家路を急いだものだ。家が近づくと美味しそうな料理の匂いが漂っていて、ほっとすると同時にますます気持ちが急いた。    家が恋しいというより家族が恋しく……家族の中でもお母さんに会いたかったのかもしれない。  玄関を開けると、エプロンをしたお母さんの笑顔が待っている。そう思うと、早く、早く会いたくて、どんどん駆け足になった。 『ただいま!』 『ミズキ、おかえり! 今日はあなたの大好きなホワイトシチューを作っているのよ~』 『わぁ牛乳たっぷりの?』 『もちろんよ、木下牧場のね』 『楽しみだな』  お母さんの何気ない会話、何気ない仕草が、子供心にも無性に愛おしくて、愛おしいと同時に消えちゃったら嫌だなぁという不安を覚えていた。  あれは予感だったのか……幼い頃から切ない郷愁にかられていたのは。  あんなに早く皆と別れることになるなんて、信じられなかった。  駄目だ。気分が落ち込むと体調もどんどん悪くなり、フラッと軽い眩暈を覚えた。  こんな風になる事は滅多にないのに、数カ月のブランクが体力をすり減らしていたのかもしれない。  
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