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選び選ばれて 7-1
さぁ帰ろうと足を一歩踏み出した所で、背後から声を掛けられた。
「君……」
「あっ」
振り返ると、さっき僕に白薔薇を渡してくれたロマンスグレーの紳士が立っていた。
「先ほどはありがとうございました」
深々と感謝の気持ちを込めてお辞儀した。
「薔薇は役に立ったかな?」
「はい、お陰様で。立派な薔薇をお譲りいただきまして、ありがとうございました。あの……間違えていなければ、あの薔薇の品種は『柊雪』ですか」
思い切って聞いてみると、「ほうっ」と感心したように目を細められた。
それから、どこか懐かしそうに僕を見つめてくれた。
「君はフラワーアーティストさん? 流石だね。あの薔薇の名を知っているとは嬉しいよ」
「はい、まだ駆け出しですが。でも薔薇の名前は僕は存じ上げていなくて……実は上司が教えてくれました」
「ほぉ、正直な所もいいね。チャペルの花も見たが、清楚な雰囲気で清らかな気持ちになったよ」
「あの……あなたは、もしかして白薔薇を育てている方ですか」
「そうだよ」
「やっぱり……素晴らしい薔薇に見惚れてしまいました。その、つけられた名前も美しいです」
「嬉しいことを。もっと見たいかい?」
「ええ、ぜひ」
「じゃあここに今度おいで」
品の良い物腰の柔らかな男性は、優雅な手つきで胸ポケットから名刺を取り出し渡してくれた。
名刺には……
~創作フレンチレストラン&カフェ 月湖tukiko~
支配人 冬郷 雪也
と書かれていた。
住所は東京の白金になっている。さっきリーダーが教えてくれた話と一致した。このレストランの庭園に、とあの薔薇が咲いているのだろう。
「こちらに伺っても?」
「うちのスコーンは特に美味しいよ。いつでも遊びに来るといい。今の季節は白薔薇の『柊雪』が本当に美しく咲いているからね」
「ありがとうございます」
「君の大切な人と一緒にどうぞ」
「え」
「あぁごめん。さっきとても幸せそうに電話していたので、そういう人がいるのではと……余計なお世話だったら失礼」
「とんでもないです。是非、僕の大切な家族と一緒に伺わせていただきます」
「待っているよ。あっうちのレストランは子連れもOKだから安心して」
「えっ? あ、はい」
僕に芽生くんがいること……何で分かったのかな。
「では、また会おう。その時にまた薔薇をあげるよ」
「本当ですか! 楽しみにしています」
これも出会いだ。
また一つ素敵な縁が繋がったと思う瞬間だった。
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