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花の行先 4-1
「葉山、今日は助かったよ。ほらっこれ土産だ」
「えっ……いいのか。こんなに?」
菅野が持たせてくれたのは、スズランの花だった。
「残りものだけど」
「嬉しいよ。これ、ブーケにしてもいい?」
「あぁその方が持ち帰りやすいよな」
「うん」
菅野と話しながら手際よくブーケを作った。
スズランはその花姿全体が可愛いので、技は懲らさず、森に咲く花を摘んで束ねるイメージで扱う。すぐに可愛いブーケが完成した。
「出来たか。なぁ葉山はこの後、暇か。まだ早いけど、少し飲んでくか」
「……」
「まだ帰れないんじゃないか」
図星だった。菅野の手伝いをしながら何度かスマホを確認したが、宗吾さんからの連絡は夕方まで一度も入っていなかった。
その事が……軽く僕を落ち込ませていた。
元夫婦同士、お互いの血を分けた子供を囲んで、きっと家族水入らずの時間を過ごしているのだろう。そんな家族団欒の場にどの面下げて帰れというのか。
僕だって、それ位の分別はある。
高層ビルの合間を縫って沈んでいく夕日を、寂寥感に苛まれながら見つめてしまった。
「葉山……おい、そんな顔すんなよ」
「……ごっ、ごめん」
今、優しい言葉をかけられたら泣いてしまいそうだ。
「行こうぜ。引っ越してから、いつもお前は飛ぶように帰ってしまうから、今日位はいいだろう。そんな顔のまま、帰せない」
「……ん」
結局、帰る決心がつかず、菅野と隣の駅までぶらぶらと歩き、賑やかな大衆居酒屋に入った。
今日はどこまでも騒がしい店の方がいい。賑やかな方がいい。
僕があまり喋らなくてもいいように……
周りのハイテンションな客の雰囲気に、自分の心を隠したくなる。
「ほら飲めよ」
「ありがとう」
生ビールのジョッキをコツンと合わせた。
一体……何に乾杯なのか。
「さっきの話……全部、当たっていたのか。つまり図星だったんだな」
「……あぁ」
菅野には、どうして全部分かってしまうのか不思議だ。
「やっぱりなぁ。そんな気がしていたよ」
「……まだちゃんと話していないのにバレバレだな」
「まぁ俺はお前のことは、よく見ているし、宗吾さんにも実際に会ったあるからな。同棲を始めてラブラブで上機嫌だった葉山がズドンと落ち込む要因は、その辺りだろう。元嫁とか元恋人、または子供絡みとかさ」
そうなのか……菅野は僕のことをよく理解してくれている。
それはいいのか、悪いのか。
そこまで察しているのなら、もう正直に話そう。信頼している菅野だからだ。
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