花の行先 6-2

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花の行先 6-2

 甘えた言葉は、僕の本音。  宗吾さんは公園の街灯から僕を隠すように、暗闇でそっと抱きしめてくれた。  彼の匂いに包まれ、ようやくホッと出来た。 「あぁ連れて帰る。瑞樹は可愛いな。俺のもんだ」  そんな独占欲の籠った言葉が今は嬉しい。  角度により街灯に顔が明るく照らされると、今度は面映ゆい気持ちになった。 「僕の顔……変ではありませんか」 「うーん、敷いていえば目が潤んでいるかな」 「え?」 「キスして欲しそうな顔だ」  ぼそっと呟かれ、ますます頬が火照ってしまう。もうっ── 「もう、それ以上やめて下さい。まともでいられなくなります!」  宗吾さんの家では、玲子さんが僕と挨拶するために、待っているそうだ。  今度は目を背けないし、逃げない。  宗吾さんが隣にいてくれる。  だから、頑張ろう。 **** 「じゃあ迎えに行ってくるから、留守番頼むよ」 「分かったわ」 「パパいってらっしゃい」  玲子と芽生に見送られて、家を出る。  かつての日常……朝の光景がほんの一瞬だけ過ぎった。  きっと今日が最後になるな……こんな風に見送られるのは。  そう思うと短い結婚生活を共に過ごし、芽生を産んでくれた玲子に、感謝したい気持ちが芽生えた。 「ありがとう」  頭を下げて礼を言うと、玲子が困ったように笑った。 「もうっ……変わりすぎ。あなたをこんなに変えたのは、瑞樹クンなのね。彼の存在って、あなたにとって本当にすごいのね」 「あぁ俺にとって『幸せな存在』なんだよ。瑞樹は……」  駅までは、ひた走った。  会いたくて、君に早く会いたくて。  途中の公園で一瞬、大沼で君が胸に抱いたブーケに似た香りが過ぎった。  一瞬足を止め迷ったが、駅を目指した。  だが駅の改札に姿が見えないことで、逆に確信した。  さっきの公園に君がいると。  愛する君がいると──  寂し気に月を見上げ、ブランコを揺らす君の手には、真っ白なスズランの花が可憐に揺れていた。  君の誕生花……スズランの花言葉なら、ちゃんと覚えている。  「return of happiness(再び幸せが訪れる)」  「sweetness(優しさ、愛らしさ)」  「humility(謙遜)」  「purity(純粋)」  すべて……瑞樹……君のことだ。  何度でも……君を幸せにしてあげたい。
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