花の行先 7-2

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花の行先 7-2

****  宗吾さんに一つだけ尋ねさせてもらった。  玲子さんがいる家に、どんな顔をして帰ればいいのか分からなくて、助けて欲しかった。 「あの、玲子さんは……まだ家にいるんですよね?」 「あぁ悪いな。あいつ、瑞樹に挨拶してから帰ると」 「……そうなんですね。宗吾さん……あの、今日は嘘ついてすみません」 「いや、嘘をつかせたのは俺の不甲斐なさからだ」 「そんなことないです。宗吾さんは少しも悪くないです。僕の方から今日は身を引くべきだったのに……」 「おいっ瑞樹は、まだそんなことを言うのか!」  宗吾さんが真顔になってしまった。  怒られる? っと身構えると、また深く抱きしめられてしまった。  いくら街灯の届かない暗闇とはいえ、外でこれはまずいと思うのに、なかなか離してくれない。 「そっ宗吾さん、もう」 「本当に困った人だな。瑞樹は……でも本当にごめん。どうしてもこれだけはここで今、言っておきたい」 「……はい」 「瑞樹はどこにも行くな! いや、絶対に行かさない」  力を込めて宗吾さんが告げてくれる独占欲の籠った言葉は、僕の自信に繋がった。 「はい……」 「約束だぞ」 「分かりました。あの、玲子さんはちゃんと僕をケーキ屋で誘ってくれました。『一緒に来る?』と。なのに僕が素直になれなくて、嘘を……」 「もう……いいんだ! 瑞樹、全部俺が悪い。あいつに先に言っておくべきだった。瑞樹と同棲を始めた事実をきちんとな」  宗吾さんも必死だ。  もう、そんな顔しないで……僕が悲しくなるから。 「大丈夫です。なんだか沢山力になる言葉をいただいて元気が出てきました」 「夜、この埋め合わせをさせてくれ」 「クスっ、もうっそれは……意味が違いますよ」 「うう……駄目か。今猛烈に君を抱きたいのを必死に我慢しているのに」  それは僕も同じだ。  今猛烈に……あなたに触れてもらいたい。    僕を深く抱いて、あなたで繋ぎとめて……安心させて欲しい。 「駄目じゃないです。僕も……同じ気持ちです」 「よしっ、約束だぞ」 「ふふっ」 「さぁ帰ろう。芽生が待ってる」 「はい!」  宗吾さんと一緒に家に帰る。  肩を並べて同じ歩調で歩いてくれる。  今の僕はひとりではない。  宗吾さんがすぐ傍にいてくれる。  そのことが嬉しくて……力強かった。      
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