花の行先 8-2

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花の行先 8-2

 こんなメンバーだし、こんな状況なのに、最後はなんだか団欒していて、それが嬉しかった。もちろんトドメは芽生くんの一言だ。 「えーおにいちゃんがパパみたいになったらいやだよ」 「えっどうして?」 「だって、パパみたいにお鼻の下がびよーんってなったらイヤだなぁ。キレイでかわいいのが残念になっちゃうもん!」 「……宗吾さん、あなたって人は」 「おっおい! いやそれは全部、瑞樹が……可愛いからだ!」  玲子さんの冷ややかな目。  僕の呆れた目。 「宗吾さん……子供の教育にだけは、くれぐれも気を付けてね」 「はぁ……宗吾さんはもうっ」 「俺……大丈夫かな」  宗吾さんが自信なさげに項垂れるから、みんなで不安になってしまった。  沈黙していると、玲子さんのスマホが鳴った。 「あっお迎えが来たわ。私はもう帰るわね」 「あぁ」 「芽生、元気でね。ママに会いたくなったらいつでも会えるからね」 「うん! ママ、ありがとう」 「玲子……元気でな」 「あなたもお幸せに」 「……瑞樹クンもね」  最後に玲子さんが僕に右手をすっと差し出した。  握手かな?  僕も手を出すと、突然ひっこめられた。  えっ…… 「うーん、やっぱり……あなたとは握手じゃなくて、こっちがいいかな」  玲子さんは手のひらを僕に向け、顔の高さにあげた。 「瑞樹クンも!」 「あっ」  僕と玲子さんはハイタッチを、つまり互いの手のひらを顔の高で叩きあう動作をした。 「これであなたに引き継いだわよ! バトンタッチよ」  感激した。宗吾さんの前の奥さんから直接、言葉で任せてもらえて、気が引き締まった。 「僕が引き継いでも……? 本当に」 「えっと、あなただから……かな。他の人だったら分からない。これは瑞樹クンの人柄よ。人徳ね!」    こんな嬉しい言葉に、僕は何を返せるだろう。  その時になって、手に握っていたスズランのブーケの存在に気が付いた。 「ありがとうございます。僕が引き継がせていただきます。僕からは……これを玲子さんに」 「まぁスズランのブーケ! すごく綺麗ね」 「玲子さんの……これからの幸せを祈っています」 「うん、ありがとう! やっぱり、あなたらしい贈り物ね」  僕は芽生くんを抱っこし、宗吾さんと一緒にベランダから帰っていく玲子さんを見送った。  彼女の新しいダンナさんは僕よりもずっと若い人のようだが、もう玲子さんにベタ惚れのようで、玲子さんが鬱陶しがる程、懐いていて笑ってしまった。 「おやすみなさい~みんな元気でね!」 「ママ― バイバイ!」  芽生くんの明るい声に、僕と宗吾さんは顔を見合わせて微笑みあった。  
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