花の行先 9-2

1/1
前へ
/1917ページ
次へ

花の行先 9-2

****  宗吾さんのお母さんとはすぐに連絡がつき、お寿司屋さんに誘うと喜んでもらえた。  芽生くんはおばあちゃんっ子でもあるので、会った途端に飛びつき、思慕の心をストレートに伝えていた。 「おばーちゃん、だいすき!」  無邪気で素直な言葉に、お母さんも擽ったそうに笑い、すぐ横で僕も頭を下げて挨拶をした。 「瑞樹くんこんばんは。函館旅行は楽しかったわね」 「はい、ご一緒出来て嬉しかったです」 「あら、あなた……」 「え?」  ジッとそのまま顔を見つめられた。なんだろう……何か顔についている? 「もしかして、今日また泣いた?」 「あっ……ハイ……」 「やっぱりね。その顔は……あの時と似ているわね」 「えっ」  あの時とは……きっと以前、玲子さんにコーヒーをかけられた時だろう。辛くても泣くに泣けないで切羽詰まっていた時に、お母さんに救ってもらった。 「宗吾、もしかして今日……家に玲子さんが来たの?」 「わっ母さんは鋭いな」 「まぁあの人にとっては息子の誕生日であるし、女の勘は鋭いのよ」 「参ったな」 「宗吾……可愛い瑞樹くんを、もう泣かせては駄目よ」 「あぁ俺の気が回らなくて、哀しい思いをさせてしまった」 「宗吾は素直に認められるようになったのね」 「あいつさ、最後に瑞樹にバトンタッチしていったよ。らしいよな」 「まぁ……そうなのね」  二人が僕の心配をしてくれているのが、心に染みた。 「宗吾さんのせいではありません。僕が弱くて。もっと強くなりたいです」 「それは違うのよ。瑞樹くんは無理して強くならなくていいのよ」  あっ、また見透かされてしまった。 「『柳に雪折れ無し』という諺を知っているでしょう」 「はい」 「柔らかくしなやかなものは、意外にも堅いものより丈夫なのよ、瑞樹くんは物事を柔軟に受け止めていけばいいの。だから無理に強がったり、強くなろうとしないで。泣きたい時は泣いて……ずっと縛っていた心をもう解放してね」  宗吾さんのお母さんの言葉は、年の功なのか。  いつだって深い所まで降りて来て、悩める僕を救い出してくれる。
/1917ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8000人が本棚に入れています
本棚に追加