花の行先 10-2

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花の行先 10-2

****    会計を済まし店先に出ると、芽生が母の手を引っ張って甘えている。  「たのしかったし、おいしかったね~ねぇパパぁ、今日はおばーちゃんちにメイおとまりしたいよぉ」 「え?」   「だって、おばあちゃんはいつもひとりぼっちなんだよ。メイは今日はたくさんいい事あったから、おばあちゃんにもいいことプレゼントしたいんだ」  おばあちゃんっ子のメイだから言える、優しい発言だ。 「そうか……母さん、でも、急にいいのか」 「もちろんよ。今日はそれがいいわ。宗吾……瑞樹くんのケアしっかりしてあげなさい。ふたりの間ではもう解決している様子だけれども、彼が今日傷ついた時間も我慢した時間も……きっと長かったはずよ」 「あぁその通りだと思う。母さん……ありがとうな」  瑞樹が一足遅れて店から出て来た。  少し足元がふらついていたので、グイっと腕を引っ張っってやった。 **** 「おにいちゃん、おやすみなさい。あしたね~」 「芽生くんどうして?」 「今日はおばあちゃんちにおとまりしてくるね」 「あっうん」 「瑞樹くん……今日は沢山、宗吾に甘えなさい」 「えっ……」 「うんうん」    芽生くんも隣で頷いている。  これって宗吾さんのお母さんからの粋な計らいなのか。そして芽生くんからのサプライズだ。 「というわけで、瑞樹、俺たちも急いで帰るぞ」 「あっはい!」  このまま自然な流れで、宗吾さんと二人きりの夜を迎えられるのか。  酒に酔っているせいなのか……抱かれる直前の高揚感みたいな気持ちが広まって、クラクラと眩暈がする。 「おっとまだ寝ないでくれよ。というか今宵は寝かさない」  甘い言葉と共に……玄関に入るなり、宗吾さんにすっぽりと躰を抱きしめられた。  腰の高さのカウンター付き下駄箱に背中を押し付けらるような形で、顎を掴まれ上を向かされ……ビールの味が残るほろ苦いキスを思いっきり受け続けている。 「ん……ん、ん……」 「瑞樹……さっきからずっと、早くこうしたかったよ、君を抱きしめて……それから」 「あっ、待って下さい。ここじゃ……」  藻掻くように宗吾さんの腕をすり抜けようとすると、玄関の鏡に映った僕と目が合った。  あ……今……こんな表情をしていたのか。  宗吾さんが早く欲しい、もっと欲しいと訴えるような、甘く潤んだ目をしていた。 「瑞樹、君が今どんな表情を浮かべているか見たか。もう……っ、たまらないよ」  
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