花の行先 16-2

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花の行先 16-2

**** 「パパ、ちょっと待っていてね」 「あぁ渡しておいで」  芽生が大事そうにフラワーボックスを持って、玲子の店に入っていく。  瑞樹がすぐ横に付き添っているので、安心だ。  ごめんな……瑞樹に負担かけているよな。  俺さ、器用な男じゃないから……こういうシチュエーションってダメなんだよ。情けないが……瑞樹のことしか見えていない。  繊細な心を持つ瑞樹は、いつだって俺の心の隙間を埋めてくれる。  ガラス越しに芽生が、玲子に母の日の花を渡す光景が見えた。  玲子は少し驚いた後、すぐに箱の蓋を開いて眼を細くした。  あぁ……ちゃんと母の顔を浮かべている。  玲子の腹の中には新しい命が宿っているのか。    そう思うと……感慨深く見つめてしまった。  その後、瑞樹と一言二言何かを交わして、瑞樹が丁寧にお辞儀した。  そろそろ……早くこっちに戻って来いよ!  そう願っていたら、その逆のことが起きた!  瑞樹の髪に、玲子が手を伸ばした。  ンン? おい、待てよっ!  なんで玲子が触れる? 俺の瑞樹に!!  瑞樹の長めの前髪を、玲子が指先で持ち上げたりして弄っている。  やばいな! 俺は……元妻にも嫉妬だ!  瑞樹もガラス越しに。かなり困惑した顔を浮かべているのが伺えた。  そして一旦店を出て、慌てた様子で俺の方に戻ってきた。 「どうした? また何か言われたのか」 「あっ……違いますよ。大丈夫ですが……その、この後向かう場所って、時間が決まっていますか」 「まだ1時間程は余裕があるが」 「あの……実は二階の美容室で……玲子さんの旦那さんが僕と芽生くんの髪をカットをしてくれるそうなんですが」 「えぇ?」 「僕も……そろそろ美容院に行かないとって思ってたので……甘えても?」  瑞樹が慎重に伺うように聞いて来る。 「そっ、そうか。俺はここで待っているよ」 「いえ、一緒に来てもらえませんか」 「何故だ?」 「その……僕は宗吾さんの好みの長さにしたいんです」  かっ可愛い……可愛すぎだろ!その発言!  さっきまでの蟠りは消え、いそいそと瑞樹と並んで店内に入ると、玲子にふふんと笑われてしまった。 「宗吾さん好みにしてもらうといいわよ。瑞樹くん」  そう声を掛けられ……図星だった瑞樹は赤面してしまった。  素直な瑞樹はすぐ顔に出る。  そんな分かりやすい体質も……愛おしくて、全部可愛いよ。  
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