花の行先 17-1

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花の行先 17-1

「どうもミズキくん!初めまして。玲ちゃんのダンナのケイです。よろしく」 「こちらこそ、宜しくお願いします」  経さんは、玲子さんの新しい旦那さんだ。  先日、玲子さんを迎えに来た時には暗くてよく見えなかったが、髪を白っぽい金髪に染め、左耳には青いピアスをつけた若々しくオシャレな青年だった。まだ23、4歳位かな。    この年でもう独立するなんてすごいな。カリスマ美容師らしく洗練された雰囲気だった。  確か玲子さんって宗吾さんと同い年だったはずだから、かなりの年の差夫婦だ。 「えっと、今日はどれ位カットしましょうか。あー全体的にだいぶ伸びていますね。特に前髪が目にかかって鬱陶しいでしょう?」 「えぇ確かに……そうですよね」  彼が僕の前髪に手をかけた途端、後ろのソファに座って様子をじっと伺っていた宗吾さんが、すっ飛んできた。 「彼の前髪は長めがいい!」 「おっと彼氏のお出ましだ! 具体的にはどの位の長さにします?」 「具体的にか……そうだな、俺の指先にくるくる巻き付けられる位の長さだ」 「はぁ?……じゃあ襟足はギリギリまで切っても?」 「いやいやそれも駄目だ。全体的に長めでふわっと風を纏うような感じがいい。瑞樹にはそういう優しい印象のヘアスタイルがよく似合う」  宗吾さんが力説すればするほど、消え入りたい程に恥ずかしくなるよ。 「そっ宗吾さん、もっ、もうそれ以上は勘弁してください……猛烈に恥ずかしいです」 「なんでだ? 君も俺の要望通りにすると言ってくれたじゃないか」 「うっ……それはそうですが、その……」 「ハイハイ、つまり全体的にそろえる程度でいいのですね」 「そういう事だ」 「了解です。彼の妖精みたいに可憐な雰囲気を生かしたヘアスタイルを作ってみせます」 「おぉ結構話が分かるな。頼んだぞ! って俺たち挨拶がまだだったな」  宗吾さんがようやく我に返り、自己紹介を始めた。 「俺は滝沢宗吾……その、玲子の前の夫だ。そして玲子から聞いていると思うが、彼が俺の恋人の瑞樹と俺の息子の芽生だ」 「えぇ大丈夫ですよ。この業界にはソーゴさんみたいな友人も多いですから。こちらこそ玲ちゃんの事はオレが愛し抜きますので、ご心配なく!」 「あぁ頼む……あいつを幸せにしてやってくれ」  バチンっと力強い音がした。  それは男同士の熱いハイタッチだった。  いい雰囲気だな。今日思いがけずこの光景を見ることが出来てよかった。  宗吾さんが一旦後ろのソファに戻るのを見計らって、経さんがぼそっと僕に呟いた。 「驚いたなぁ~玲ちゃんの前のダンナさんって細かい事に口煩いタイプなんだね。きっと家にちょっとホコリがあるだけで目くじらを立てたんだろうな。綺麗好きで神経質そうだから、君も大変だね」 「ははは……」  乾いた笑いを浮かべるしかなかった。  残念ながら、それはないと断言出来るよ。  宗吾さんの部屋に泊まると、明け方必ずクシャミが出るので、思い切って寝室のベッドを横にずらして大掃除したら、出るわ出る……  灰色の大きな埃がモコモコと蠢いていて……発狂しそうになったのは、僕の方だ!  つまり……宗吾さんが口うるさく細かいのは僕限定の気がするが、それを口に出すのは、ただのお惚気だろう。
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