花の行先 17-2

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花の行先 17-2

「パパぁ、ボクはどのくらい切るのぉ?」 「あぁメイは子供らしくサッパリだ! なんなら坊主でもいいぞ」 「えぇーイヤだよぅ」 「くくくっ、お父さん、さっきと随分対応違いますね」  先に仕上げてもらった僕は、毛先を整える程度だったのに、とても軽やかで洒落た雰囲気に仕上がった。 「瑞樹クンって、まじモデルみたいに綺麗だね」 「え? そんなこと言われたことないですよ」 「髪色も自然な蜂蜜色、バーモンドブラウンだし、色白で頬はすべすべ。これはソーゴさんにたっぷり愛されちゃうの分かるな」 「えっ、えっと」 「彼、夜になると、しつこいでしょ?ふふっ」 「あ、あの!」  こういうテンションには慣れなくて、困惑してしまう。 「ぷっ意識しすぎ。ほら彼氏が睨んでいるよ。前髪、いい感じでしょう。彼氏の骨張った男らしい指に3回は巻き付けられるようにサービスしておいたよ。くるくるくるってね~」  引きつりながら笑うしかなかった。もうっ、絶対宗吾さんのせいだ! 「終わった?……っと」  玲子さんがコーヒーをお盆に載せて二階に上がってきた。ところが最後のステップで一瞬グラっと足元が覚束なくなったので、ヒヤリとした。 「わっ玲ちゃん、気をつけてよ! お腹の赤ちゃんに触るよ。大丈夫かい?」 「ちょっと経クンってば……その、まだ話してなかったのよ、息子に」  玲子さんが決まり悪そうな顔をしたので、僕と芽生くんも顔を見合わせてしまった。 「おにいちゃん……いまの話……ママのおなかにあたらしい赤ちゃんがいるの?」 「うん、そうみたいだね」  芽生くんの心の内側……大丈夫かな。  不安になってしまった。 「そうなのよ。芽生、実はあなたは冬に半分おにいちゃんになるのよ」 「そうなんだぁ……うん……わかった! 男の子かなぁ女の子かな」 「まだ分からないの」 「そうかぁ、たのしみだなぁ」    元気に笑って見せていたが……僕の手を握る芽生くんの手はひどく汗ばんでいた。  子供なりに状況の変化についていこうと必死なんだ。その気持ち分かるよ。微妙な寂しい気持ち、嬉しい気持ち……半々だろう。  実の弟が出来たと聞かされた時でさえ、僕は少し寂しかった。お母さんをとられちゃうのかなっと思うのは、上の子の宿命だが。  函館の家に引き取られ、急に血のつながらない兄弟が出来た時も戸惑ったよ。兄弟の話は、血がつながっていてもいなくても、本当に難しい。  今日はここまででいいだろう。  もう話を逸らしてあげたくなった。 「それにしても芽生くんも可愛くカットしてもらったね」  僕は芽生くんをギュッと抱き上げた。  ずっと僕がいるから大丈夫だよ。  僕は君を裏切らない。君の傍に……望まれる限りいるよ。  兄にも弟にもお父さんにだってお母さんにだって、なってあげる。  だから寂しくないよ……  そんな思いを込めて抱きしめると、芽生くんにも通じたのか、僕の首に手をまわしホッと息を吐いた。 「おにいちゃんがいてくれると、なんでもだいじょうぶみたい」 「うん。それは僕もだよ」  芽生くんと僕も、宗吾さんと僕と同じように、この先の人生を共に歩む一員なんだと、しみじみと感じた。 「さぁ……時間だ。そろそろ行こう!」  宗吾さんの掛け声と共に、玲子さんのお店を後にした。  車に乗る前に一度だけ振り返ると、店の一番目立つショーケースに、芽生くんが贈った母の日のフラワーボックスが綺麗に飾られていた。  母の日の……花の行先はここまでだ。    切った毛先の分だけ、僕の心は軽くなっていた。  玲子さんと経さんが仲良く並んで、いつまでも手を振っていた。  違う道を歩んでいく僕たちを、見送ってくれた。 『花の行先』 了   お知らせ(不要な方はスルーでご対応願います) **** いつも読んで下さり沢山のスター、スタンプ、ペコメありがとうございます。日々の更新の励みになっております。 本日で『花の行先』が終わりましたので、 30スター特典『幸せな存在からの贈り物』の続きを本日公開しました♡ 7万スター達成の感謝の気持ちを込めて…… 本編では出来なかった宗吾さんの夢…… あんなことを瑞樹にさせちゃうというだけの、甘い話ですが♡ お楽しみいただければ嬉しいです!
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