紫陽花の咲く道 1-1

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紫陽花の咲く道 1-1

「宗吾さん、どこへ行くのですか」 「まだ内緒だ」  後部座席に座った僕は、隣の芽生くんと顔を見合わせてしまった。  どこに行くのか、まったく見当がつかない。 「パパーいいところ?」 「あぁもちろん」 「うーん、むずかしいなぁ」  やがて道路表示に高輪白金方面と見えてくると、思い当たる事があった。 「あっ!」  バックミラー越しに宗吾さんが笑っている。とても機嫌が良さそうだ。 「宗吾さん、あの……もしかして」 「そうだよ。例の白金のレストランに向かっている」 「あの時の僕の話を覚えて?」 「当たり前だ」  仕事先で出会った『柊雪』という白薔薇と優しく助けてくれたシルバーグレイの紳士に惹かれて、宗吾さんに家族で行ってみたい場所だと話していた。まさか今日そこに連れて行ってもらえるとは思はなかったので、興奮してしまった。 「驚いたか」 「えぇとても!」 「今日がいいと思ったんだ。だって今日は母の日だろう?」 「……はい、母の日ではありますが」  宗吾さんの言う事がいまいち理解出来ず、首を傾げてしまった。 「まぁ俺たちは母親ではないから、関係ないよな」 「……そうですよね」 「だが母親が家にいない分、母親代わりの事も頑張っているよな。日々奮闘している」 「はい。宗吾さんはいつも頑張っています!」  宗吾さんのこれまでの頑張りを思い、大きく頷いてしまった。  宗吾さんは言葉を更に繋げる。 「それは瑞樹も同じだ。俺と同じだけ、いや俺以上によくやってくれている。風呂や着替えなど細かい所にも目が届くし頼もしいよ。いつもありがとうな。そしてお疲れさん」 「あっはい……ありがとうございます」  ストレートに労いの言葉をもらい褒められると、急に照れくさくなって……語尾が小さくなってしまう。  でも……宗吾さんに認めてもらえている事が、とても嬉しい! 「というわけで、今日はお互いを労わり合いたいと思ってな。美味しいレストランでランチなんてどうだ?」 「とても嬉しいです。ありがとうございます」 「うわぁ~今日のパパカッコいい〜」  芽生くんもパチパチと拍手をして喜んでくれる。 「よし!じゃあ行こう!」  まったく予期せぬ展開だったが、宗吾さんらしいな。  僕が考え付かない方へと飛躍して進んでいくのが、いつだって心地良い。  もっともっと引っ張って欲しい。  僕を……あなたの元に。
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